2-02 / Series
2-02 № 02 · 2026

AI に、PC を一台渡す。

会社の PC を一台 Debian にして、root ごと AI に渡す。初期化で戻らない物だけ、人が持つ

自立編で立てるものは、全部どこかで動く。その置き場を、最初に決める。

2-01 で、Microsoft と Google に束ねられた層を、開いた道具に解く地図を引いた。この章は、その道具を載せる機械の話だ。やることは一つ。会社の PC を一台 Debian にして、AI に渡す。AI にも専用の PC を一台あげる、ということだ。

一台で全部やる

公開の Web サイト、社内の道具(認証・文書・メール・会議・予約・コードの置き場)、AI の作業を、同じ一台に載せる。

最初から分ける理由はない。台数が増えれば、設定も更新も台数分になる。そして、 AI が一つの機械の中で全部を見られるほうが、調べるのも直すのも速い。処理が足りなくなったら、そのときに分ければいい。

例外は、2-16 で据える自前の LLM だけだ。これは別のサーバーに置く。GPU と大きなメモリが要り、ほかの道具と要るものが違うからだ。

Debian の上に、apt と systemd で立てる

OS は Debian にする。Python と apt は最初から入っていて、git も apt の一行で入る。更新で勝手に再起動されることもない。

以降の章で立てるサービスは、Debian の apt で入れ、systemd で動かす。apt に無い物は、公式が配る単体のファイルを置いて、systemd に登録する。Docker は使わない。

Docker は配るための道具で、作るための道具ではない。作った物を、他人の環境で同じに動かしてもらうための箱だ。自分の一台で作って、そこで動かすなら、配る相手がいない。隔てるのは別の利用者と systemd の制限で足り、立て直しは git に入れた設定とデータの写しでやる。使わない理由は、具体的には三つある。

例外も、配る側から決まる。公式がコンテナでしか配っていない物は、そのコンテナを受け取って使う。使うのは公式のイメージだけで、自分でイメージは作らない。配る相手のいないイメージは、守る物と直す場所を増やすだけだ。

画面を入れて、動かしたままにする

デスクトップ環境(GNOME)も入れて、起動したままにする。サーバーだから画面は要らない、とはしない。AI にやらせたいことの中に、画面が要るものがあるからだ。

人が見るときは、手元の PC からその画面につなぐ。

AI に root を渡す

サーバーの設定は、全部 AI がやる。入れる、設定する、動かす、直す。どれも命令とファイルの仕事で、やった結果が機械で確かめられる。1-01 で見た ルールが明確で、答え合わせができる領域 に、そのまま当てはまる。

権限を渡してよい理由は一つだ。壊れても、初期化して始め直せる。ただし、初期化で戻るのは OS だけだ。設定とデータは、二つの決めで戻せるようにしておく。

これで、初期化しても元の姿に戻る。だから、それでも戻らない物だけを人が持つ。それが次の節だ。

初期化で戻らない物だけ、人が持つ

この三つ以外は、AI に任せてよい。

公開の側と AI の側を分ける

公開の側に穴が出たときに、AI の側のデータと鍵に届かないようにするためだ。 2-05 で書く「中央は最小限、守りは各サーバーで多層に」は、機械が一台でも変わらない。

AI を複数入れて、相互に見張らせる

AI は一つにしない。別の会社の AI も入れる。一社に頼らないのは、 3-05 で見るロックインを避けるのと同じ考えだ。

そのうえで、相互に見張らせる。別の会社の AI を組ませ、見張る側には 作った物と、確かめる基準だけ を渡す。どう作ったかの経緯は渡さない。同じ経緯を共有した相手は、同じ見落としをする。

要る物

メモリやディスクの量は、ここでは決めない。この連載で立てる物を AI に伝えれば、手元の PC で足りるか、何を足せばよいかは AI が決める。

サーバーは安い物でよい。壊れたら取り替える。専用のサーバー機も、保守契約も要らない。

逆引き(PTR)は、IP アドレスから名前を引く記録だ。ふだんの DNS が名前から IP を引くのと、向きが逆になる。メールを受け取る側のサーバーは、送ってきた機械の IP を逆引きして、引けた名前がまた同じ IP に戻るかを確かめる。戻らなければ、迷惑メールとして扱うか、受け取らない。Gmail は、送る機械のすべてにこれを求めている(Google の送信者ガイドライン、2026-10-05 に確認)。

逆引きを設定するのは、IP アドレスの持ち主である回線の事業者だ。固定 IP の回線なら、普通は設定してあるので、こちらですることはない。

費用

2026-10-05 時点の公開価格(税抜・月払い)で、Claude は Pro が月 20 ドル、Max が月 100 ドルからだ。別の会社の AI も、基本の契約は同じ価格帯にある(ChatGPT Plus は日本の公式頁で月 3,000 円)。二つ並ぶのは、相互に見張らせるために、別の会社と二契約するからである。

時期 契約 月額
作るあいだ Claude Max 100 ドル + 別の会社の基本の契約 約 20 ドル 約 120 ドル
運用に入ったら Claude Pro 20 ドル + 別の会社の基本の契約 約 20 ドル 約 40 ドル(税込みでも月 1 万円以内)

運用での AI の仕事は、動いているかを確かめることと、小さな直しになる。一日じゅう書かせるわけではないので、基本の契約で足りる。

稟議も、サーバーの契約も、人数分のライセンスも要らない。AI と話すのは作る人 (ビルダー)だけで、契約はその一人のものだ。個人の契約を他人に使わせることは、規約で禁じられている(Anthropic の利用規約)。グループの全員が使うのは、AI が作った道具のほうで、道具には人数分の契約が要らない。

確かめ方

この章は、次の六つができていれば済みだ。

  1. 手元の PC から、ssh でサーバーに入れる
  2. 手元の PC から ssh の中を通して画面につなぎ、GNOME のデスクトップが見える
  3. systemctl --failed が、止まったサービスを一つも返さない
  4. 外から見て、80 と 443 と ssh 以外の口が閉じている
  5. AI がやった設定が git に入っていて、データの写しが機械の外に届いている
  6. AI に「この機械の状態を報告して」と言うと、報告が返る
ssh builder@example.com     # 1
systemctl --failed          # 3
sudo ss -tlnp               # 4 ── 待ち受けている口を見る

人が持つ物

人が渡す値

AI が「やる前に言う」操作

確かめた版と日付

まとめ

自立編を動かす機械を、最初に決める。

次章では、この機械の上に 土台(SQLite・PostgreSQL・DuckDB) を据える。


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