2-15 / Series
2-15 № 15 · 2026

整備こそ本体、
AI は最後の一手。

OCR・分類・属人知の成文化 ── 散らばった・書かれていない知を、書かれた・構造化された状態へ。AI を載せなくても回収できる no-regret 投資

AI を載せる前に、載せるに値する情報を作る。前章までで部品は揃った ── 土台・門番・文書・コード・メール・会議・Web・API と、道具は立った。だが、その上を流れる情報そのものは、まだ散らばっている。共有フォルダの底に沈んだファイル、紙とスキャン PDF、そして最も重いもの ── 誰かの頭の中にしかない属人知。ここではその三つを、書かれた・構造化された状態へ移す。

整備こそ本体、AI は最後の一手

順序を間違えてはいけない。RAG も、自前の AI も、整った情報の上にしか立たない。散らばった・書かれていない情報に、いくら賢いモデルを載せても、出てくるものも整わない(garbage in, garbage out)。

だから本章は、AI の前に置く。やることは三つ ── 紙を読む(OCR)、散らばりを揃える(分類・構造化)、頭の中を書き出す(属人知の成文化)。

そして、この整備には、二つの性質がある。

賢いモデルより、整った情報のほうが効く。整備こそ本体。AI は、最後の一手だ。

紙は OCR でテキストにする

最初の関門は、これまで機械が読めなかった情報だ。紙、スキャン、画像 PDF、手書き。

# 例: スキャン PDF をテキスト層つきに(OSS OCR)
ocrmypdf --language jpn input.pdf output.pdf   # 検索可能な PDF + テキスト

出力は、文字(AsciiDoc か Markdown)とプレーンテキストに寄せる。専用フォーマットに閉じ込めない ── 後で誰でも・どの AI でも読めるようにするためだ(2-07 の原則)。

散らばりは、分類と構造化で揃える

次に、散らばったファイルを揃える。

ここで AI は強力な助手になる。「この 200 ファイルを種類ごとに分類し、要約を付けて」── 分類も要約も、ローカルのモデル(2-16)で回せる。だが、*分類の軸を決めるのは人*だ。業務にとって何が「同じ種類」かは、業務を知る者にしか分からない。

頭の中は、聞いて書き出す

最も重く、最も価値があるのが、書かれていない知だ。長年の担当者の頭の中にある、仕様の曖昧な部分、例外処理、なぜそうなっているかの理由。これが消えると、システムは「動くが、誰も分からない」状態になる(3-05 の人的依存)。

やり方は、2-12 で基幹ロジックに使ったのと同じだ ── 現場にヒアリングし、AI に下書きさせ、現場が確認する。

属人知が書かれた瞬間、それは引き継げる資産になる。AI を載せるかどうかと無関係に、ここで会社は強くなる。

整った情報の上に、AI を載せる

整った情報が揃って、はじめて次章だ。書かれた・構造化された文書を、2-03 の pgvector に埋め込み、RAG に載せる(2-16)。

整備を飛ばして RAG を組むと、出典は曖昧で、答えは当てにならない。整備を済ませてあれば、自社の実データに基づいて、出典つきで答える AI が、素直に立つ。

RAG の質は、モデルの賢さではなく、載せた情報の整い方で決まる。

確かめ方

この章は、次の五つができていれば済みだ。

  1. 紙の帳票が、検索できるテキストになっている(PDF を開いて語を検索すると当たる)
  2. 図表混じりの帳票が、Markdown として読める形に起きている
  3. 文書置き場が一つになり、種類・部門・日付・版が、フォルダとファイル名で分かる
  4. 担当者一人しか知らなかった手順が Markdown になり、本人が読んで直した版が置き場にある
  5. 置き場の文書が、専用フォーマットではなく Markdown とプレーンテキストで開ける

人が持つ物

人が渡す値

AI が「やる前に言う」操作

確かめた版と日付

まとめ

AI の前に、情報を整える。

整備は、AI を載せなくても回収できる ── 属人化が解け、引き継ぎが楽になる。整備こそ本体で、賢いモデルより、整った情報が効く。

次章では、この整えた情報の上に、自前の AI を据える。


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