第3章 / Essay
第3章 № 03 · 2026

文書はMarkdownで。
書式ではなく、構造を残す。

書式ではなく構造を残す

文書を書く道具を、Markdown に変える。

それだけで、AI が同僚になる。文書の検索、要約、翻訳、分析、書き換え、すべてが Claude に頼める仕事になる。

Word は書式の檻だ

Word を開くと、まずフォントを選ぶ。次に余白を調整する。見出しのスタイルを決める。色を選ぶ。空白行の高さを揃える。

ようやく書き始めるころには、本当に書きたかったことが少しぼやけている。

書式を整える時間は、考える時間を奪う。形を作っているうちに、中身が痩せる。これは Word の欠陥ではない。Word は書式を整えるための道具として設計されている。書式が前面に出るのが当然だ。

しかし、書類の本質は書式ではない。本質は構造だ。「これが結論」「ここが理由」「ここが補足」「ここが引用」── 文書を成り立たせているのはこの骨格である。書式は、骨格を見やすくするための装飾にすぎない。

道具を変えると、考え方が変わる。Word で書くと装飾が前に出る。Markdown で書くと構造が前に出る。

Markdown はテキストでしかない

Markdown はプレーンテキストだ。記号で構造を表現する。

# 見出し1

## 見出し2

これは段落。**強調**したい部分は二重アスタリスクで囲む。

- 箇条書きはハイフン
- 続く項目もハイフン

> 引用はこのように書く。

これだけで、見出し・段落・強調・箇条書き・引用が表現できる。テーブルもリンクもコードブロックもある。しかし、フォントを選ぶ書式はない。色を変える書式もない。 それは、必要ないからだ。

書式が要るのは表示する時。書く時には要らない。書くときに気にすべきは「これは見出しか段落か、リストか引用か」── 構造だけだ。

AI が読むのは構造

ここが決定的に重要な点だ。

Claude に Word ファイルを渡すと、まず .docx を解凍して XML を読む。書式情報をすべて剥がして、テキストだけを取り出す。AI が必要としているのは、最初から剥き出しのテキストだ

Markdown を Claude に渡せば、変換は要らない。直接読める。直接書ける。

道具を AI 時代に合わせれば、AI は同僚として並んで立てる。同じ言語で思考する道具を選ぶことが、その入口だ。

これは比喩ではない。技術的事実だ。AI とテキストでやり取りする限り、Markdown は AI と人間の共通語である。

flowchart LR Word[".docx
(書式 + 構造 + 中身)"] XML["XML
(.docx を解凍)"] Text["テキストだけ
(書式を剥ぐ)"] AI(("AI
Claude / GPT")) MD["Markdown
(構造 + 中身)"] Word --> XML --> Text --> AI MD ==>|そのまま読める| AI classDef cage fill:#fef3e7,stroke:#c89559,color:#5a3f1a classDef free fill:#e8f5e9,stroke:#7a9a6d,color:#3a4d34 class Word,XML,Text cage class MD free

何を書く時に Markdown を使うか

全部だ。

メモ。議事録。社内文書。提案書。報告書。マニュアル。仕様書。手順書。学習ノート。日記。請求書のドラフト。契約書のドラフト。プレゼン資料の原稿。ブログ記事。本の章。

「これは Word でないと…」と感じる文書は、ほとんどない。最終的に PDF や Word 形式で配布する必要があるなら、Markdown から変換すればいい。書く段階と配布する段階を分ける

書くのは Markdown。配布するときに必要なら他の形式に変換する。これだけで、考える時間が増える。

Markdown を「書く」より「Claude に書いてもらう」

ここで一段階先に進む。

Markdown は Claude に「これを Markdown で整理して」と頼めば、勝手に整形してくれる。話したことを Markdown にしてもらう。手書きメモを写真で撮って Markdown にしてもらう。長い Word 文書を渡して Markdown 化してもらう。

つまり、自分で記号を覚える必要すらない。書きたい内容が頭の中にあれば、Claude が記号を正しく当てて整形する。

Markdown を学ぶことは、必須ではない。Markdown が読める ようになっておけばいい。読める人なら、Claude が出してきた Markdown をチェックして、必要なら修正できる。これは数時間で身につく。

どのエディタで書くか ── Zed / VSCodium / Neovim

Markdown はテキストファイル ── テキストエディタなら何でも書ける。 メモ帳でも書ける。だが、Markdown と AI ネイティブな働き方に合う エディタを選ぶと、書く時間が一段速くなる。

選択肢は三つ。自分の慣れ・好み・環境で選ぶ。

エディタ 特徴 向く人
Zed 起動が速い(0.3 秒)、モダン、軽い、AI 統合内蔵 これから始める人、まずは一つ選びたい人
VSCodium VS Code の FLOSS 版(Microsoft テレメトリ無し)、拡張機能が豊富 VS Code に慣れている / 拡張機能で組み上げたい人
Neovim ターミナルで動く、キーボードだけで完結、設定をテキストで管理 コマンドライン中心 / SSH で作業する人

三つに共通するのは:

初心者の方へ ── 迷ったら Zed。ダウンロードして開けば その日から使える。慣れてから VSCodium や Neovim に進めばよい。 「読める能力」さえあれば、どのエディタでも入れる。

Zed ── 入りやすい標準

これから始めるなら Zed。ダウンロードして開けば、Markdown が 読みやすく色付けされて表示される。サイドバーでファイルを開き、 Cmd+P でファイル検索、Cmd+Shift+F で全文検索 ── VS Code に似た 操作感だが、Rust 製で圧倒的に速い(.md を 0.3 秒で開く ── Word は 3〜10 秒)。

Zed には Claude / GPT などの AI 統合が内蔵 されている。書きながら 「ここを校正して」「この段落を要約して」と頼める(アシスタント パネルから明示的に呼ぶ ── キー入力を常時送るタイプではない)。

入手: zed.dev(Mac / Linux / Windows)

VSCodium ── VS Code の自由版

「VS Code を使い慣れているが、Microsoft への通信を切りたい」 という人には VSCodium。VS Code のソースコードから Microsoft のテレメトリと商用ライセンス部分を除いてビルドした版。同じ拡張 機能(ほぼ)、同じ UI、Microsoft アカウント不要。

Markdown プレビュー、Mermaid プレビュー、AsciiDoc / MyST / LaTeX サポート、Claude / Cline / Continue などの AI 拡張 ── ほとんど すべて使える。

入手: vscodium.com(Mac / Linux / Windows)

なぜ VS Code ではなく VSCodium か ── Microsoft 365 / Copilot と 同じ「ベンダー集中」の話だ(第5章)。中身は同じだが、データの 流れと著作権は VSCodium のほうが自分の側にある。

Neovim ── ターミナル中心、ハッカー向け

コマンドライン中心で作業する人 ── サーバーに SSH して書く、Linux で完結したい、キーボードだけで動かしたい ── には Neovim。 Vim の後継、Lua で設定、プラグインで AI(avante.nvimcodecompanion.nvim など)・LSP・Markdown プレビュー・Mermaid プレビューも組める。

学習コストは三つの中で一番高い(hjkl のモーダル編集に慣れる必要 がある)。しかし、慣れたら タイピング速度がエディタの限界を 超える。10 年前の設定が今も動く長期安定性も魅力。

入手: neovim.io(Mac / Linux / Windows / BSD)

共通する作法 ── Markdown + Git + AI

どのエディタでも、本書の作法は同じ:

エディタを変えても、原則は変わらない。 テキストを自分の手元で持ち、AI には選んで渡す

本格的に仕事として使うなら ── Forgejo / Gitea

ここまでは「自分の手元で書く」話だった。

本格的に仕事として ── 一人でもチームでも、バックアップを持つ・ 履歴を遠くにも置く・将来チームで共有することを考えた瞬間、Git の ホスティング先 が必要になる。GitHub や GitLab がよく知られて いるが、本書の作法に沿うと、自分(またはコミュニティ)で動かせ るサーバー に置くのが本筋だ。

選択肢は二つ:

ツール 性格 推奨度
Forgejo コミュニティが運営する FLOSS、非営利の Codeberg e.V. がガバナンス ◎ 第一選択
Gitea Forgejo の元。現在は商用会社 Gitea Ltd. が管理 ○(以前から運用している場合は継続でよい)

両方とも:

初心者の方へ ── 「一人で書いている」と「バックアップが要らな い」は 別物 です。git init でローカルに履歴を残しても、 ディスクが壊れたら全部消える。一人でも、最初から どこかに git push する先を持つ ── これは必須。

一番小さい形でいい:家の miniPC や古い PC に Forgejo を立てる (3〜6 万円、月額費ゼロ)、別マシンや NAS に push する、外付け ディスクに毎日 git push する。「いきなり外向きサーバーは 怖い」場合は、LAN の中だけで運用すればよい。遅かれ早かれ、 自分のサーバーが要る ── miniPC 一台が一番楽な入口

プライバシーが要るものは、セルフホストを基本に

Git ホスティングを選ぶときの 第一の判断軸はプライバシー だ。 「中身を公開していいか」で、置き場所が変わる:

中身 推奨ホスティング
公開 OSS、ブログ原稿、教育コンテンツ Codeberg(または GitHub の公開リポジトリ)
個人ノート(雑記・調べ物) セルフホスト(または家庭内の Forgejo / NAS)
業務データ・社内ドキュメント・議事録 セルフホスト(必須)
契約書・見積書・顧客リスト セルフホスト(必須)
顧客の個人情報・健康情報・金融情報 セルフホスト(法的にも必須)
会社・チームのコード(非公開) セルフホスト(または有償の私設プラン)

原則 ── プライバシーや所有権が問題になるものは、セルフホスト が基本。Codeberg は非営利だが「他人のサーバー にデータを 置く」ことには変わりない。自分の手元に置けるなら、自分の手元 に置く。これが第5章「自分のシステムを自分の側に置く」の Git 版だ。

「セルフホストは難しそう」と感じるかもしれない。次のセクションで 小さなセルフホストから始める 道筋を示す。AI(Claude)が設定を 書いてくれるので、思っているより簡単だ。

なぜ Forgejo か ── ガバナンスの話

Gitea と Forgejo は コードベースとしてはほぼ同じ(Forgejo は Gitea のフォーク)。違いは 誰が運営しているか:

機能としては Forgejo が追随しているので、選ぶなら Forgejo。 Microsoft Office と OnlyOffice の関係(第5章)と同じ構造だ ── 「中身は同じだが、ガバナンスがコミュニティ側にある」方を選ぶ。

三つの置き場所 ── 用途で選ぶ

(1) 自分でセルフホスト ── プライバシーが要るものの基本

miniPC 一台で十分。Intel NUC、Mac mini、Beelink、GMKtec、 小型 ARM ボード ── 3〜6 万円で買える小さな箱に Linux を入れて Forgejo を動かす。月額費ゼロ、データは自分の家、消費電力も低い (5〜15 W、24 時間つけても電気代は月数百円)。Forgejo は単一バイナリ なので、リソースは僅か(RAM 1 GB あれば余裕)。

ドメイン一つと HTTPS のリバースプロキシで、外部からも push / pull できる ── これで 自分の Git プラットフォームが完成業務データ・契約書・顧客情報・個人ノート ── 中身が外に出てほしく ないものは、すべてここに置く

# miniPC の Linux に Forgejo を入れる例
$ wget https://codeberg.org/forgejo/forgejo/releases/download/v8.0.0/forgejo-8.0.0-linux-amd64
$ chmod +x forgejo-8.0.0-linux-amd64
$ ./forgejo-8.0.0-linux-amd64 web

詳しい設定(systemd ユニット、HTTPS、自動バックアップ、SSH 公開鍵 認証、外部公開時のセキュリティ ── fail2ban、Tailscale、Cloudflare Tunnel など)は Claude に頼めばよい ── これも 「書く能力ではなく使う能力」(第1章)の領域だ。

ラズパイ、NAS、家にある古い PC でも動く ── すでに家にあるなら そこから始める。LAN の中だけで運用すれば、外に晒さずに済む (自分専用なら十分)。サーバー機を新調する必要は無い

VPS を借りる選択もある(補助) ── 外出先からも頻繁にアクセス したい、家のネットワークを外に晒したくない、自宅の電源・回線が 不安定、という場合は小さな VPS(月 500〜2,000 円)を借りる。 だが、プライバシー的には miniPC のほうが筋(VPS は他人の データセンター)。まずは miniPC、必要なら VPS を足す

(2) 組織内に立てる ── 会社・チーム規模

社内の VPS / Kubernetes クラスタに Forgejo を立てる。全リポジトリ が組織の物理境界の中にある。Microsoft / GitHub / Atlassian の サブスクが切れる、データポリシーの変更に振り回されない、ソース コードと業務文書が 自分たちのもの になる(第5章の Office 議論 と同じ構造)。これも実体は セルフホスト

(3) Codeberg.org ── 公開してよいものを置く

Codeberg.orgForgejo を非営利が ホストしている公共のフォージ。アカウントを作れば誰でも使える、 無料。OSS プロジェクトの公開、ブログ原稿、教育コンテンツに最適。 ベンダーは非営利。

ただし、これは「他人のサーバー」だ業務データや個人情報は 置かない。あくまで「公開してよいもの」専用 ── これを忘れない。

GitHub との関係

GitHub を使ってはいけない、という話ではない。公開 OSS には今も 有力:

GitHub は 2018 年に Microsoft の傘下 に入った。Microsoft 365 / Copilot と同じ「集中化」の文脈にある。プライバシーが要るものは、 GitHub にも Codeberg にも置かない ── これがプライバシー原則の 徹底だ。

Markdown と Mermaid もそのままレンダリングされる

Forgejo / Gitea / Codeberg は、リポジトリの README.md.md ファイルを Web 画面でそのままレンダリング する。```mermaid ブロックも標準でレンダリングされる。書いたものがそのまま Web で 見られる ── 別途静的サイトジェネレータをビルドしなくても、 社内 Wiki として機能する

具体例:Forgejo + miniPC でどう運用するか

抽象的な「セルフホスト」は、具体例で見ると分かりやすい。

例 1:個人事業主のコンサルタント A さん

机の下に Beelink miniPC(3 万円、Ubuntu)。Forgejo を systemd で 常時稼働。ドメイン forge.example.jp を Cloudflare で取得、 Cloudflare Tunnel で外部公開(家のルーターに穴を開けない)。

リポジトリ構成:

Zed で書く → git push → Forgejo に履歴が残る。机の MacBook が 壊れても、miniPC に履歴がある。バックアップは miniPC から外付け SSD に毎日 cron で rsync

例 2:5 人の制作プロダクション B 社

社内に Intel NUC(6 万円、Debian)。Forgejo に社員 5 人のアカウント、 それぞれ private リポジトリ + 共有プロジェクトリポジトリ。社内 LAN からのアクセスのみ(外部公開しない、tailscale で社外からも安全に)。

社内 Wiki は internal-wikiREADME.md を Forgejo の Web 画面 で開くだけ。Notion も Confluence も要らない。月額のサブスク料金 が消える(月 5 千円 × 5 人 × 12 ヶ月 = 年間 30 万円)。

例 3:学校教師グループ C さん(教員 3 人で共有)

職員室の片隅に Mac mini(中古、2 万円、macOS のままで Forgejo を 動かす)、LAN 内のみで運用、外部公開しない。

教員間で「あの先生の昨年度の単元」がそのまま見られる、git history で「前任者がどう改訂してきたか」も読める。業務知識が学校に残る (担当者の異動で消えない)。

これらに共通するのは、

「サーバーを立てる」が、想像よりずっと敷居が低いことが分かる。

本格的に仕事として Markdown を扱うなら、 書く道具(エディタ)置く場所(Forgejo) の両輪が要る。 一人でもバックアップは必須、プライバシーが要るものはセルフ ホストが基本 ── これが「自分のシステムを自分の側に置く」の Git 版だ(第5章)。

用途で使い分ける ── テキスト形式は四つで足りる

Markdown は 日常の標準 だが、これだけで全部を賄うわけではない。 用途に応じて、より適した テキスト形式 を選ぶ。

形式 役割 出力先
Markdown 短い思考の断片、Web 記事の草案 ブログ、aiseed.dev
AsciiDoc 体系的な構造分析、技術マニュアル 高機能 HTML、電子書籍
MyST (Jupyter) データ分析レポート(計算結果付き) インタラクティブな Web ページ
LaTeX 厳格な形式が求められる報告書 高品位 PDF、印刷物

四つとも テキストファイル。バイナリではない。Git で履歴管理できる。 AI が直接読める。違うのは「どこまでの構造と表現力を持つか」だけ。

flowchart TB Intent["書きたい内容
(言葉・データ・図)"] Intent --> Q1{"用途は?"} Q1 -->|"日常文書
(Web 記事・メモ・提案書)"| MD["**Markdown**
軽い、すぐ書ける"] Q1 -->|"体系的なマニュアル
(数百ページ・索引・相互参照)"| AD["**AsciiDoc**
構造表現が深い"] Q1 -->|"計算結果付きレポート
(コード + グラフ + 解釈)"| MY["**MyST (Jupyter)**
文書と計算を一体に"] Q1 -->|"印刷品質の報告書
(論文・行政・出版)"| TX["**LaTeX**
厳格な組版"] MD --> Web["ブログ・aiseed.dev"] AD --> HTMLEB["高機能 HTML / EPUB"] MY --> Interactive["インタラクティブ Web"] TX --> PDF["高品位 PDF / 印刷"] classDef pri fill:#e8f5e9,stroke:#7a9a6d,color:#3a4d34 classDef sec fill:#fef9e7,stroke:#c8a559,color:#5a4a1a class MD,AD,MY,TX pri class Web,HTMLEB,Interactive,PDF sec

Markdown ── 日常の標準

書きたいものの 8 割は Markdown で書ける。本書の各章も Markdown。 ブログ記事、議事録、メモ、提案書、報告書の下書き、社内 Wiki ── すべて Markdown。最も軽い形式、テキストエディタで開ける、 変換先は pandoc で何でも(HTML / PDF / Word / EPUB / スライド)。

AsciiDoc ── 構造が深い時

数百ページの 技術マニュアル、複数の章節項を持つ 体系的な構造 分析、索引・参考文献・相互参照が要る文書 ── Markdown では構造の 表現力が足りない場面で AsciiDoc。条件付きの本文(版による違い)、 ファイルを跨ぐ自動相互参照、表現力の高い表組み・脚注・索引が 標準機能で揃う。O'Reilly の技術書も AsciiDoc で書かれている。 出力は 高機能 HTML、EPUB 電子書籍、PDF

MyST (Jupyter) ── データと文章を一体に

データ分析レポートには、計算式・コード・グラフ・文章による解釈 が混ざる。MyST は Markdown の拡張で、Jupyter Notebook の計算セル を文書に埋め込めるpolars / matplotlib / altair の出力を 本文と一緒に管理、再実行すれば結果が更新される。「文書」と 「計算」が分離していないレポートを作るための形式 ── 第1章で扱った JupyterLab の世界と直結する。出力は インタラクティブな Web ページ (ズーム可能なグラフ・展開可能なコード)。

LaTeX ── 紙に印刷する時、厳格な体裁が要る時

学術論文、社内公式報告書、書籍出版、行政提出書類 ── 「紙で 読まれる」「組版品質が要求される」文書。数式、化学式、図表番号、 参考文献の自動採番、ページ参照、目次、索引 ── すべて自動。 最終出力は 印刷品質の PDF(xelatex で日本語も)。 50 年動いている技術で、これからも 50 年動く。

AI が書くので、文法を覚える必要はない

「AsciiDoc も MyST も LaTeX も独自の記号があって、学習コストが 高そう」── 旧来はそうだった。だが AI ネイティブな働き方では、 これは問題にならない。

あなた:この提案書を AsciiDoc にして。章節構造はそのまま、 相互参照と索引を付けて、HTML と EPUB に出せる形にして。

Claude:(AsciiDoc が返る)

あなた:この分析を MyST にして。集計コードと Altair のグラフを 本文に埋め込んで、Jupyter Book でビルドできる形に。

Claude:(MyST が返る)

あなた:この報告書を LaTeX で。表紙、目次、参考文献、索引付き、 A4 で印刷できる形に。

Claude:(LaTeX が返る)

人間は 読めればいい。読めれば、Claude が出した出力が正しいか 判断できる。書ける必要は無い。Markdown でも AsciiDoc でも MyST でも LaTeX でも、原則は同じ ── 書く能力ではなく、使う能力

迷ったら Markdown で始める。書いてみて、構造が深くなりすぎたら AsciiDoc に、計算が増えてきたら MyST に、印刷品質が要るなら LaTeX に ── Claude に変換を頼むだけで移れる

Word ファイルが届いたら

組織の中で働く限り、Word ファイルは届き続ける。来た Word をどうするか。

簡単だ。Claude に渡して Markdown にしてもらう。

その Markdown を読んで、考えて、応答する。応答も Markdown で書く。送り返すときに Word が要るなら、Markdown を Word に変換する(これも Claude に頼める)。

自分の作業領域を Markdown に保つ。組織が要求する形式は、入口と出口の変換だけで吸収する。中身は構造として保たれる。

10年後も読める

Word の .doc 形式は、20年前のファイルを今開けないことがある。書式情報が現在の Word の解釈と合わなくなり、レイアウトが崩れる。フォントが置換される。

Markdown は、ただのテキストファイルだ。10年後も20年後も、テキストエディタがあれば読める。AI ならもっと簡単に読める。

構造を残せ。書式は捨てろ。

書式は今を飾る。構造は時間を超える。

実例: 数字で見る

Word の議事録 50 ファイル(計 5 MB)を Markdown にすると、合計 250 KB。20 分の 1。Git で履歴管理、grep で検索、Claude に渡すコストも比例して下がる。

「先月の議事録から決定事項を抜き出して」── Word 50 ファイルを開いて手作業で抽出すれば半日。同じデータを Markdown にしておけば、Claude に丸ごと渡して数秒で返ってくる。

Word 起動時間: 3〜10 秒。Zed で *.md を開く時間: 0.3 秒。1 日 30 回開くと、年間 30 時間以上の節約。

Word ファイルの token 消費: 5,000 文字で約 8,000 トークン(書式情報を含むため水増しされる)。同じ内容の Markdown は約 4,000 トークン。Claude に渡し続けるなら、書式は捨てるほどコストが下がる

まとめ

道具を AI 時代に合わせれば、書く側の手元が軽くなる。

Word から Markdown へ。日常文書はこれで十分。長大なマニュアル なら AsciiDoc、計算付きレポートなら MyST、印刷品質の報告書なら LaTeX ── 用途で使い分ける。共通するのは「書式ではなく構造を 残す」「テキストファイルだから AI が直接読める」「AI が書くので 文法を覚えなくていい」── この三つだけ。

たった一歩で、書く対象が「見栄え」から「中身」に移る。AI が同僚に なる。10 年後も読める文書ができる。

次の章では、図を描く話に進む。PowerPoint から、Mermaid と Claude デザインへ。


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実例

再現可能なソース・コマンド・実測結果を、別ページにまとめてある。