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AIデータセンターが買い占めたガスタービンが、肥料工場の復旧を物理的に妨げている
4月7日、イランとの停戦が合意され、ホルムズ海峡が再開される見通しとなった。原油先物は下落し、株式市場は反発した。
しかし、海峡が開いても、壊れた工場は直らない。
世界の肥料の約半分は、ペルシャ湾岸の石油・ガスプラントから副産物として生産されている。39日間の戦争で、これらの施設の多くが破壊された。修復には3〜5年かかるとされる。
なぜそんなに時間がかかるのか。その理由を辿ると、意外な場所に行き着く。AIデータセンターである。
カタールのラスラファン工業地帯は、世界最大のLNG(液化天然ガス)輸出拠点である。ここで精製される天然ガスの副産物として、肥料の原料であるアンモニアと硫黄が生産されてきた。
イランの報復攻撃でラスラファンが被弾し、LNG輸出能力の17%が一瞬で失われた。修復するには、施設の心臓部である大型ガスタービンを交換しなければならない。
このタービンを製造できるメーカーは、世界に3社しかない。GE Vernova(米国)、Siemens Energy(ドイツ)、三菱重工(日本)。
チョークポイントはさらに狭い。ガスタービンの性能を決定づけるのは、1600℃を超える高温に耐える「単結晶タービンブレード」である。一つの結晶として鋳造されるこのブレードの製造には、「一方向凝固鋳造」と呼ばれる特殊な炉が必要であり、炉の建設と品質認証の取得だけで2〜3年かかる。鋳造工場をゼロから建設すれば4〜6年。金属が冷却し結晶化する物理的な時間を、金で短縮することはできない。
この単結晶ブレードの素材となる超耐熱合金(ニッケル基およびコバルト基スーパーアロイ)のマスターインゴットを製造・供給しているのが、日本のIHIマスターメタルである。同社はこの分野でほぼ独占的な地位にある。ガスタービンメーカーは3社あるが、3社すべてのタービンの心臓部が、日本の1社のマスターインゴットに依存している。
エネルギー調査会社Rystad Energyによれば、これら3社は開戦前からすでに2〜4年分の受注残を抱えていた。カタール政府がどれほどの資金を投じても、ガスタービンの納入は物理的に順番待ちである。
では、この2〜4年分の受注残は、どこから来たのか。
2023年以降、大規模言語モデルの訓練と推論に必要な電力需要が急増し、AI企業は巨大データセンターの建設を競った。電力を賄うために、各社はガスタービン発電所の建設を急いだ。
OpenAI、Microsoft、SoftBank、Oracleが推進するテキサス州アビリーンの巨大データセンター「Stargate」プロジェクトは、当初1.2GWで計画されたが、最終的に小国の国家電力網に匹敵する約5GWにまで拡張された。開発を担うCrusoe社がGE Vernova製のガスタービンを2024年12月に10基、2025年6月にさらに19基発注した。イーロン・マスクのxAIは、メンフィスのスーパーコンピューター施設に最大60基のガスタービンを発注した。
こうしたAI企業による調達競争の結果、ガスタービンの価格は2019年比で195%高騰し、製造ラインは2029年まで完全に予約で埋まった。
そして2026年2月、戦争が始まった。
ラスラファンが被弾し、肥料の原料であるアンモニアと硫黄の供給源が失われた。修復するにはガスタービンが要る。しかしガスタービンは、AIデータセンターの受注で2029年まで埋まっている。
厳密には、AIデータセンターが発注しているのは航空機転用型(エアロデリバティブ)の小型タービンであり、LNG施設に使われる大型タービンとは最終的な組み立てラインが異なる。しかし、両者の心臓部である単結晶ブレードの素材——IHIマスターメタルのマスターインゴット——は同じプールから供給される。小型タービンの大量発注が素材を消費すれば、大型タービン向けの素材と鋳造工数が圧迫される。競合は組み立てラインではなく、素材という最も根本的な層で起きている。
ChatGPTに「今日の夕食は何がいい?」と聞くための電力インフラが、その夕食の食材を生産するための肥料原料の復旧を物理的に妨げている。
ガスタービンの競合に加えて、AIの事業モデルそのものが圧力を受けている。
エネルギーコストの構造的上昇。 原油は100ドルを超え、電力費はデータセンター運営コストの30〜50%を占める。ホルムズ海峡の通航料は恒久化する見通しであり、破壊された中東の施設の再建には3〜5年かかる。安いエネルギーは数年間戻らない。ChatGPTの1回の応答にかかる電力コストが上がれば、月額20ドルのサブスクリプションでは採算が合わなくなる。値上げすればユーザーが離れ、値上げしなければ赤字が膨らむ。
投資余力の蒸発。 イラン戦争の戦費、世界的な景気後退の兆候、関税による貿易縮小。AI企業への投資に回す余裕が消えつつある。2026年3月、OracleとOpenAIはStargateの1.2GWから2.0GWへの拡張計画を断念した。OpenAIは2024年に50億ドルの損失を出しており、黒字化が見込まれる2029年までに累計440億ドルの赤字を計上すると予測されている。
信頼の崩壊。 エプスタインファイルでイーロン・マスク(xAI)、ビル・ゲイツ(Microsoft/OpenAI出資者)、ラリー・サマーズ(元OpenAI理事)の名前が浮上した。
法的な歯止め。 Anthropic対国防総省の裁判(4月30日)で、政府によるAI企業への軍事利用の強制が違法と判断される可能性がある。政府によるAI需要の一部が消失する。
中東のAIインフラ計画の崩壊。 サウジアラビアやUAEに建設予定だったAIデータセンター群は、戦争で中東のエネルギー供給が不安定化し、前提が崩れた。
ガスタービンは食糧とAI、どちらに使うべきか。
AIがなくても人は生きられる。食糧がなければ人は死ぬ。
しかし現実には、AI企業の発注書がメーカーの生産ラインに先に入っている。市場経済の論理では、先に金を払った者が先にタービンを手に入れる。
これは市場に任せていい問題ではない。各国政府がガスタービンの納入順序に介入する政治的決断が必要である。
この構造の中で、日本は特別な位置にいる。
ガスタービンメーカー3社のうち1社は三菱重工である。そして3社すべてのタービンの心臓部——超耐熱合金のマスターインゴット——を供給するIHIマスターメタルは日本企業である。世界のガスタービン供給網の最上流を、日本が握っている。
マスターインゴットの供給順序について日本政府が方針を示すことは、世界のAIインフラと食糧復旧の優先順位に直接影響を与える。法的根拠もすでにある。日本は2022年に「経済安全保障推進法」を成立させ、同年12月に「肥料」を特定重要物資に指定した。肥料のサプライチェーンを回復させるために、マスターインゴットやガスタービンの供給順序に介入する大義名分と法的枠組みが、すでに存在している。
同時に、日本はイランとの独自の外交チャネルを持ちうる。日本はイランを攻撃していない。停戦後、日本の船舶はすでにホルムズ海峡を通過している。ガスタービンの素材供給という交渉力と、イランとの外交関係を組み合わせれば、日本のエネルギーと食糧の安全保障を独自に確保する道がある。
参考資料: ガスタービン供給網の優先順位論争(PDF)
本記事の事実情報の収集にはGemini Deep Researchを、構造分析と執筆にはClaude(Anthropic)を使用しています。