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Microsoftが引き起こす電力問題と環境問題

AI ファースト戦略の代償 ── サポート5年化、名ばかりの AI PC、データセンター倍増

Microsoft の看板 AI 製品 Copilot の性能評価は厳しい。Windows, Officeに組み込んでいるにも関わらず、対象となるユーザーのうち実際に料金を支払っているのは30人に1人にも満たない。最大の不満は正確性で、Copilot は事実をハルシネーションする。離脱したユーザーの44.2%が「回答への不信」を理由に挙げている。社内のリーク情報は統合が「実際には機能しない」と評していた。Salesforce の Benioff は顧客が ChatGPT を好み Copilot に失望していると公言し、Microsoft 社内ですら競合ツールを好む従業員がいると報じられている。

本来 OS は、退屈で安定した土台でなければならない。検証の済んだ枯れた技術を組み合わせ、何年も挙動が変わらないことに価値がある。ところが Windows 11 は、その土台に、どうなるか分からない実験段階の AI を抱え込み、ハードウェア要件まで作り変えてユーザーに購入を迫っている。うまくいくか分からない AI を組み込んだ製品を、利用者は完成品として買わされている。そして、完成していないものは長期保証できない。後述するサポート期間の短縮は、この当然の帰結である。 それでも Microsoft は巨額のインフラ投資を止められず、後戻りできない規模で AI に賭けている。このことが、次のような大きな問題を引き起こしている。

Windows 11 PC の問題

Windows 11 の PC は、端的に言えば二つの問題を抱えている。

第一に、すべての機種で2029年以降のサポートが保証されていない。長期安定運用を意図した Enterprise LTSC 2024 ですら 延長サポートがなく2029年10月9日に更新終了し、従来10年だったサポートが5年に半減した。一般リリースは毎年のアップデートを受け入れる前提で、24H2 以降は CPU 要件が予告なく引き上げられ、欠ける機種は OS が起動しない。凍結したい層にも最新を追う層にも、長期運用の保証はない。

第二に、NPU 搭載 PC(Copilot+ PC)は「AI PC」として売られているが、AI 推論性能は高くない。40 TOPS 以上の NPU を要件とするが、ローカル AI 推論の速度を決めるのは演算能力(TOPS)ではなくメモリ帯域幅で、統合型チップはこれが構造的に不足する。実測でも40 TOPS の NPU で1.5Bモデルが約6.9トークン/秒に留まり、ボトルネックは LPDDR メモリ帯域幅。大半の Windows ラップトップでは10〜30億パラメータ超の LLM を実用速度で動かせない。「AI PC」の追加コストは Recall や Live Captions の有効化のためで、本格的なローカル推論の性能を買っているわけではない。

そして、より大きな問題は環境負荷

この二つの問題は、別々のものではない。いずれも Microsoft の AI ファースト戦略から派生しており、その戦略が引き起こす最大の問題が環境負荷である。

Windows 11 が直接生む廃棄

2025年10月14日の Windows 10 サポート終了で、最大4億台が電子廃棄物となりうる。Windows 10 機の43%が Windows 11 に移行できない。廃棄されれば最大7億キログラム。ラップトップは生涯排出の70〜80%が製造段階で発生するため、製造だけで1台あたり約219kg CO2e。動く PC を捨てて新品に換えるのは、使用延長で節約できる量の数倍の炭素を製造で追加排出する選択で、4億台なら8800万トン CO2e 規模になる。

しかもこれは一回限りではない。サポートの5年化と 要件の予告なき引き上げ が恒久化したため、物理的に動く機材が周期的に対象外になり、廃棄の波が繰り返される。対象 PC の多くは Web サービス用途で新デバイスを必要とせず、対象外の理由は性能ではなく Microsoft が引いた線(TPM 2.0、CPU 世代)である。

AI ファーストが押し上げる電力と排出

「AI PC」化と OS への AI 機能統合は、Microsoft の AI ファースト戦略の末端である。そして戦略の本体は、桁外れのデータセンター投資にある。

Microsoft は2025会計年度だけでデータセンター建設に約800億ドルを投じ、その半分以上が米国向けだった。これは同社史上最大のインフラ投資である。その結果、同社の電力使用は2020年比で168%増加した。

投資はさらに加速している。2026会計年度第1四半期だけで設備投資は349億ドル、うち111億ドルがデータセンターのリースに費やされた。ナデラは2026年度を通じて AI 容量を80%以上増やし、データセンターの規模を今後2年で約2倍にすると述べている。2026年の設備投資は1,200億ドル超の見込み。

データセンターを2年で2倍にする計画と、カーボンネガティブ目標は、構造的に両立しない。数千億ドル規模の建設投資は、それ自体が膨大な製造・建設排出を生み、稼働後は膨大な電力を消費する。これが地域の電力不足とカーボンの大量増加をまねく。

矛盾を抱えたまま走り続けている

ナデラは、電力需要の爆発を内包する AI ファースト戦略と、2030年カーボンネガティブという、矛盾した二つの計画を同時に公表している。サステナビリティ責任者自身が「目標は moonshot だったが、月はさらに遠ざかったと認めざるを得ない」と述べているのに、目標は取り下げられていない。そして同社のサステナビリティのトップページ「Explore our impact」は、減った指標だけを並べ、総排出23.4%増という事実を構成から外している。

物理的実排出が4年で倍増し、止まっていた Three Mile Island の原子炉を20年契約で2028年に再稼働させて AI データセンターの電力を賄う段階に至ったことが、この戦略のエネルギー需要の大きさを示している。

まとめ

Windows 11 PC の二つの問題——サポートの不保証と、名ばかりの「AI PC」——は、どちらも Microsoft を「長期安定運用される OS の提供者」から「AI とクラウドのサブスクリプションへ顧客を誘導する企業」へと組み替える、AI ファースト戦略の現れである。そしてその戦略は、使える機材を周期的に廃棄させ、データセンターの電力需要を押し上げ、自社の排出を2020年比23.4%増へ導いた。カーボンネガティブを掲げたまま、それと両立しない方向へ全力で走っている。これが Windows 11 と AI ファーストが引き起こしている、最も大きな問題である。

そして、ここで一つの問いが立つ。そもそも、それだけ大量のデータセンターが本当に必要なのか。 冒頭で見たとおり、看板製品の Copilot に実際に料金を支払っているのは対象ユーザーの30人に1人にも満たない。実需がそれほど確かでないものに対して、原子炉を再稼働させ、使える PC を廃棄させ、自社の排出を倍増させるほどのインフラを積み上げている。電力問題と環境問題の根には、需要に見合わない規模の供給を、後戻りできない形で先に作ってしまったという構造がある。


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