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8年前の予言の答え合わせと、AIネイティブな働き方の入り口
2017年12月、私はQiitaに「ExcelにPythonが搭載?」という記事を書いた。投稿から8年が経ち、答え合わせの時が来た。
当時の期待は、技術的に具体的だった。Pandasを使えば、Excelがなくても動作する。Linuxサーバーでも問題なく使える。Visual Studio Codeで編集し、Gitでバージョン管理し、デバッグもターミナル操作もできる。SQL ServerからPostgreSQLへのデータ移行も、Pandas経由で簡単にできる。Excelをデータ処理のGUIとして使いながら、本格的な開発環境を持ち込める。これが現場のエンジニアが共有していた、技術的に合理的なアーキテクチャだった。
そして2023年、ExcelにPythonが搭載された。さらにCopilotというAIも統合された。
しかし、8年前に描いた希望はそこにない。
現在のPython in Excelは、8年前の記事で挙げた利点をすべて封じている。
オフライン環境では動作しない。Pythonコードはローカルマシンでは実行されず、Azure Container Instances上のコンテナに強制送信されて実行される。ローカルファイルへの自由なアクセスもない。使い慣れたVS Codeでのデバッグは許されない。Gitでバージョン管理もできない。Excel外のデータベースとの連携も、ローカルマシンを経由した形では成立しない。
8年前に「Linuxサーバーでも問題なく使える」と書いた利点は消えた。「VS Codeで編集、Gitで保存」と書いた利点も消えた。「PandasだとExcelだけでなく総てのデータベースで活用できる」と書いた利点も封じられた。
これは技術的な制約ではない。PyXLLやxlwings Liteといったサードパーティ製ツールは、ローカル実行・Git管理・任意のライブラリ利用を、既に完全に実現している。Microsoftはローカルで動かす技術を持ちながら、クラウドでしか動かない選択をした。
理由は単純で、ローカル実行を許せば、Azureのリソースは消費されない。前払いされた月額課金を消費させ続けるために、計算をクラウドに強制連行する設計を選んだ。
Microsoftは2010年代を通じて、Microsoft Researchで世界最先端のAI研究を保有していた。画像認識のResNet、音声認識の人間レベル到達、機械翻訳の品質向上、これらの分野で先端にいた組織である。ローカルで安全にPythonを実行する技術も、AIを統合する技術も、社内に十分にあった。
それでもナデラ体制のMicrosoftは、社内の長期資産を、短期の財務指標と引き換えに切り売りする選択を続けてきた。OpenAIへの130億ドル投資、Microsoft Researchの縮小と研究者の流出、過去最高益の中で実施された15,000人規模のリストラ、年間600億ドル規模の自社株買い。一見、攻めの経営に見える。しかし構造で見れば、長期の技術資産を解体し、短期のクラウド収益と株価に変換する動きである。
Python in Excelのクラウド幽閉も、この経営判断の一部だ。ユーザーのシステム主権という長期資産を解体し、Azureの月額課金という短期収益に変換する。ユーザーの利便性は、この変換の副産物として犠牲になる。
LLMは「確信を持って嘘をつく」性質を持つ。これは原理的な特徴で、改善はされても消えない。Microsoft自身が公表したベンチマーク「SpreadsheetBench」でも、Excel Agent Modeの正答率は57.2%にとどまる。約4割は間違える機能を、業務システムの中核に統合することは、設計として誤っている。
堅牢なシステム設計の古典的な原則は、「実装によらないセキュリティ」である。AIが生成したコードは、ローカルの隔離された環境で実行し、人間が挙動を検証し、テストを通してから本番に投入する。この検証層が、AIの不確定性を吸収する。
Microsoftの現在の設計では、この検証層が構造的に存在しない。Copilotが生成したコードは、ブラックボックスで生成され、ブラックボックスで実行される。ユーザーは検証できない。
そして、Microsoft自身のセキュリティ文化にも深刻な疑義が呈されている。2023年のExchange Online不正アクセス事件について、米国サイバー安全審査委員会(CSRB)は「セキュリティ文化は不十分」「回避可能なエラーの連鎖は許しがたい」「企業セキュリティへの投資と厳格なリスク管理を軽視する文化」と断じた。CrowdStrike障害は既に世界の850万台のWindowsを停止させ、54億ドルの損失を生んだ。より深刻な事故は、起きるかどうかではなく、いつ起きるかの問題である。
8年前の希望は、Microsoftによってクラウドの檻に閉じ込められた。しかし、AIの進化で、もはやExcelに依存する必要がなくなった。
Claudeのような対話型AIが、設計、コード生成、データ処理、文書作成、すべての領域で人間を手伝ってくれるようになった。経理担当者がAIとの対話で経理システムを作る。現場担当者がAIで業務ツールを作る。これは未来の話ではなく、動き出した人から実現している現実である。
問題はMicrosoftだけではない。Google Workspaceも同じ構造を持つ。データとロジックが特定ベンダーのクラウドに人質に取られている点では変わらない。ベンダーの方針が変われば、料金体系が変われば、地政学的状況が変われば、ユーザーの仕事はそのたびに揺さぶられる。
巨大ベンダーのビジネスモデルのために、自分のデータとシステムが人質に取られる時代は終わった。
その具体的な作法を、シリーズ記事「AIネイティブな仕事の作法」にまとめて公開している。エンジニアだけでなく、多くの人がAIネイティブに働けるようになることを目指している。
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徳島から、AIネイティブな働き方を全職種に広げる動きを、一緒に作っていきたいと考えています。