連載は前回で完結しました。ですが、実務でいちばん効く技法を一つ、追補します。「どのモデルを使うか」より前に効く、そもそも誤答を減らすための頼み方の話です。
AIは、無知だから間違えるのではない
AIが、流暢で、もっともらしく、しかし間違った答えを返すことがあります。ここで誤解しやすいのは、「知らないから間違えた」と思ってしまうことです。多くの場合、そうではありません。必要な知識は、AIの中に入っています。それでも間違えるのは、記憶から語らせると「世間の平均」が出てくるからです。
ある言葉について、正式な規格の文書は世界に一本しかありません。一方、その言葉を使った宣伝記事や導入事例は、ウェブに何万本もあります。AIは、たくさんある方に引っ張られます。だから記憶で答えさせると、規格の定義ではなく、宣伝で薄められた世間の平均が返ってくる。自信ありげなのに間違っている、という現象の正体はこれです。
だから、一手はこうです ── 資料を貼る
対策は、拍子抜けするほど単純です。大事な判断のときは、一次資料をこちらから貼る。
- 規格の話なら、その規格の文書(PDFやページ)を貼る
- 法律や制度の話なら、条文そのものを貼る
- 自社製品や自社ルールの話なら、社内の正式な文書を貼る
そのうえで、「この文書を踏まえて答えてください」と添える。これだけで、AIは「記憶から平均を思い出す機械」から、「与えられた資料を読んで整理する機械」に変わります。前者は当てになりませんが、後者は、Fable 5 のように長い文書を丸ごと読めるモデルでは、非常に得意な仕事です。第3回「大量の資料を読ませる」で見た強みが、そのまま誤答対策になります。
さらに二つ、検証を足す
資料を貼ったうえで、答えを鵜呑みにしない工夫を二つ。
根拠を原文から引用させる。 「その結論の根拠を、貼った資料の該当箇所を引用して示してください」と頼みます。引用が出せないなら、それは資料に書いていないこと ── AIが記憶で補った部分です。引用の有無が、「資料に基づく答え」と「平均で埋めた答え」を分ける線になります。
反対意見をぶつける。 AIは、こちらの前提に同調しがちです。だから一つ答えをもらったら、「逆の立場から反論してください」と促す。矛盾があれば、たいていここで表に出ます。結論を出す主体は、自分の側に残しておく。
この二つは、前回まで繰り返してきた「道具は選び直せるようにしておく」と同じ姿勢です。AIの答えも、出どころで信用せず、中身を毎回確かめる。
応用 ── 自分だけの「正典」を作る
この考えを一歩進めると、面白いことができます。自分の仕事で「これは正しい」と決めた文書だけを集めておき、質問のたびにその中から関係する箇所を貼る。すると、ウェブの平均ではなく、自分が選んだ資料だけに基づいてAIに答えさせられます。
たとえば、ある野菜の辞典を作るとします。ウェブの噂話ではなく、産地の公式な生産仕様書だけをAIに読ませて記述させ、各文について「原文のどこが根拠か」を必ず示させる。根拠を出せない文は捨てる。こうすると、外国語の資料で人が直接確かめられない場合でも、出典つきで、検証された記述だけが残ります。「AIに任せる」のではなく、「AIに、自分が選んだ資料を読ませて、裏取りさせる」。ここに、これからのAIの使い方のいちばんおいしいところがあります。
その仕事は、Fable 5 に頼む価値があるか?
実践追補の答えは、こうなります。頼む前に、資料を用意する。 どのモデルに頼むかを決めるより先に、「何を読ませるか」を決める。一次資料を与え、根拠を引用させ、反対意見をぶつける ── この三つを習慣にすれば、Fable 5 のような賢いモデルほど、その賢さが「正しい方向」に働きます。
道具を選び直せるようにしておくのと同じく、AIに握らせる資料も、自分で握っておく。 それが、誤答をいちばん減らす一手です。
本記事の情報は2026年7月時点のものです。料金・提供状況は変わる可能性があるため、最新は Anthropic 公式情報をご確認ください。