第6回 / Series
第6回 № 06 · 2026

Office スイートと業務システムを開く ── OSS につなぎ直す

会社の道具立ては、二つの「閉じた箱」でできている

毎年の値上げ通知に、ため息をつきながら判を押す。業務システムの改修見積もりに、驚きながらも代わりがないので発注する ── 会社のITコストは「仕方ないもの」として扱われがちです。

第6回は、この「仕方ない」の正体と、Fable 5 がそこで果たせる役割を扱います。第3回の「閉じた箱」、第5回の「閉じた資産」── あの話を、会社の道具立て全体に広げます。

会社の道具立ては、二つの「閉じた箱」でできている

たいていの会社のITは、大きく二つでできています。Office スイート(文書・メール・会議などの事務の道具一式)と、業務システム(販売管理や在庫管理など、その会社の中核の仕組み)です。

そして、この二つは同じ性質を持っています。閉じている のです。

Office スイートでは、文書は特定の会社の形式で保存され、データはその会社のクラウドにあり、入口(アカウント)もその会社が握っています。業務システムでは、コードは読める人がいなくなり、仕様書は失われ、保守は作った業者にしか頼めません。

閉じているから、値上げにも、仕様の変更にも、従うしかありませんでした。「仕方ない」の正体は、この閉じた構造です。中身が見えず、持ち出せないものは、交渉のしようがありません。

開く道具が、手元に来た

第3回と第5回で見たとおり、閉じた箱の蓋は「読むコストの高さ」でした。そして Fable 5 は、まさにそのコストを潰します。

取り出した中身は、もう閉じていません。ここからが本題です ── 開いたものは、どこに置き直すのか。

置き直す先がある ── OSS という選択肢

置き直す先の有力な候補が、第5回に「実績ある部品」として登場した OSS(オープンソースソフトウェア。第5回参照)です。OSS は部品にとどまりません ── 文書の編集、メール、会議、データベースといった道具そのものにも、世界中で長く使われてきた実績のある OSS がそろっています。

大事なのは「無料だから」ではありません。開いているから です。開いた形式で取り出した文書は、開いた道具にそのまま収まります。中身が見えるので、何かあっても調べられる。特定の一社の値上げや方針変更に、全部を人質に取られない。閉じた箱同士はつなげませんでしたが、開いたもの同士は、素直につながります

もう一つ、開いた道具には、閉じた箱にはない性質があります。AIと一緒に育てられる のです。設計図が公開されているので、「この機能が足りない」「うちの業務にはこの癖が合わない」というとき、Fable 5 に直させることができます(第5回の要領です)。閉じた道具では、提供元に要望を出して、対応を待つしかありません。開いた道具なら、待つ必要がありません。

この違いは、AIの利用料の積み上がり方にも効いてきます。閉じた箱のままAIを使うと、AIの仕事は「橋渡し」になりがちです。独自形式から毎回中身を取り出す。合わない出力を毎回整形し直す。同じ変換を、使うたびに繰り返す ── 従量課金(第2回)では、この繰り返しがそのまま利用料になります。使うたびに払う構造 です。

開いた道具立てでは、同じAIの仕事が 一度きりの改善 に変わります。一度書き足した機能は残り続け、一度直した癖は直ったままです。AIの利用が、毎回の橋渡しから、積み上がる資産づくりに変わる ── 道具立てを開いて置き直すことは、AI利用を際限なく膨らませないための土台づくり でもあります。

何から頼むか ── まず「開けるかどうかの地図」を作る

いきなり移行してはいけません。最初の仕事は調査です。これは第4回で見た複数工程タスクそのもので、依頼文(プロンプト)はこう組めます。

添付するのは、当社で契約しているソフトウェアとサービスの一覧、社内でよく使う文書の種類のメモ、業務システムの概要資料です。 【目的】 どこから自前の道具立てに移せるか、判断の材料が欲しいです。それぞれについて、(1) データを開いた形式で取り出せるか、(2) 置き換え先の候補になる実績のある OSS は何か、(3) 移行の難しさと、取り組む順序の案、を一覧表にまとめてください。 【制約】 判断がつかない項目は「要調査」と明記し、根拠のない推測で埋めないこと。 【完成条件】 一覧表1枚と、最初に着手すべき1件の提案(理由付き)。

返ってくるのは「地図」です。地図があれば、全部やるか、一部だけやるか、今はやらないか ── 判断できるようになります。方向性の決定は人間、実現はAI(第1回)。この依頼は、方向性を決めるための材料集めを任せる依頼です。

進め方の原則 ── 止めない・並べる・確かめる

移行に進む場合の原則は、三つだけです。

  1. 止めない ── いま動いている道具を、先に解約しない
  2. 並べる ── 新しい道具を横で動かし、同じ仕事が回ることを確かめる(並行稼働)
  3. 確かめる ── 切り替えの判断は、検証の結果で行う。検証のやり方は第3回・第4回の型がそのまま使えます

一気にやる必要はありません。文書だけ、メールだけ、と一箱ずつ開けていけます。開いた分だけ、「仕方ない」が減っていきます。

なお、この種の調査では会社の内部資料をAIに渡すことになります。データの扱いの制約は、次回まとめて説明します。読ませる前に、そこだけ確認してください。

会社のIT基盤全体を実際に組み替える手順 ── どの OSS を選び、どの順で立てるか ── は、別シリーズ「AIネイティブな仕事の作法 ── ソフトウェア開発編」が一章ずつ扱っています。この先へ進みたくなったら、そちらへどうぞ。

その仕事は、Fable 5 に頼む価値があるか?

第6回の答えです。会社の道具立てを開く仕事は、長く、複雑で、失敗のコストが大きく、検証が欠かせない ── 連載で見てきた判断基準のすべてに「はい」が付きます。つまり、最上位モデルの本命の使いどころです。まずは移行ではなく、「開けるかどうかの地図」から頼んでみてください。

次回は最終回。安全分類器・利用上限・データ保持 ── 使う前に知っておくべき制約をまとめ、連載全体の問いに答えます。


本記事の情報は2026年7月時点のものです。料金・提供状況は変わる可能性があるため、最新は Anthropic 公式情報をご確認ください。