明日の会議までに、契約書の束と過去の経緯資料に目を通しておきたい。しかし全部で数百ページあり、どう考えても読み切れない ── そんな状況は、多くの仕事で定期的にやってきます。
第3回は、Fable 5 の使い方のなかで最も再現しやすく、効果を実感しやすいもの ── 大量の資料をまるごと読ませる 方法を扱います。
100万トークンとは、どのくらいの量か
Fable 5 のコンテキスト(一度に読み込める量。第1回参照)は100万トークンです。トークン(第2回参照)と日本語の文字数の換算は文章によって変わりますが、日本語ではおおむね 1文字 = 1〜1.5トークン が目安です。つまり100万トークンは、ざっと 70万〜100万字 ── A4 のビジネス文書で数百枚、文庫本にして 7〜10 冊分に相当します。契約書一式・関連する社内規程・過去数年分の議事録を 全部同時に 渡してもまだ余る規模です。
量の大小そのものより、大事なのは質の変化です。従来は資料を小分けにして要約させ、要約同士をまたつなぎ合わせる必要がありました。小分けにした時点で、文書をまたぐ矛盾や関連は見えなくなります。まるごと読ませられるなら、「全部読んだ上で答えてください」という頼み方ができる。これは要約とは別の仕事です。
見方を変えれば、こうも言えます。読み切れない資料の束は、これまで 実質的に「閉じた箱」 でした。中に矛盾やリスクが書かれていても、全部を読む人がいなければ、無いのと同じです。読むコストが高すぎることが、箱の蓋になっていました。Fable 5 が変えるのはここです。読むコストが潰れた瞬間、閉じていた資料は開く ── AIの役割の核心は、この「閉じていたものを開くこと」にあります。
何に使えるか ── 3つの典型例
まるごと読ませる価値が高いのは、文書と文書のあいだ に答えがある仕事です。
- 契約書一式のレビュー ── 本体・覚書・別紙を全部読ませて、矛盾する条項や自社に不利な条項を洗い出す
- 社内規程の横断チェック ── 就業規則・情報管理規程・稟議ルールを並べて読ませ、重複や食い違い、抜けている場面を探す
- 長い議事録群からの論点抽出 ── 半年分の会議録を読ませて、「決まったこと」「先送りされ続けていること」「担当が曖昧なこと」を仕分けする
どれも、人間がやると数日がかりで、しかも見落としが出やすい仕事です。目が疲れるほど、後半の文書ほど読み方が浅くなる ── 人間の読解には、そういう性質があります。AIの読解は逆で、1ページ目と500ページ目を同じ集中力で読みます。
コストの心配は、ここでは杞憂です。第2回で見たとおり、料金は読ませた量(入力)と書かせた量(出力)で決まりますが、入力側の単価は出力側の 1/5 です。仮に100万トークンを丸ごと読ませても、入力側の料金は $10。数百ページの束を人間が数日かけて読む人件費と比べれば、桁がいくつも違います。大量に読ませる使い方は、実は Fable 5 の料金体系と相性のよい使い方です。
依頼文の Before / After
同じ資料を渡しても、依頼文(プロンプト)で結果は大きく変わります。契約書レビューを例にします。
Before ── ありがちな頼み方:
この契約書を要約してください。
これでは「短くなった契約書」が返ってくるだけです。要約は読む量を減らしてくれますが、判断の材料は増えません。
After ── 全部読んだ相手への頼み方:
添付する業務委託契約書一式(本体・覚書2通・別紙)と、当社の発注ガイドラインをすべて読んでください。そのうえで、(1) ガイドラインと矛盾する条項、(2) 当社側に一方的に不利な条項、(3) 表現が曖昧で解釈が割れそうな条項を、条番号付き で一覧にしてください。それぞれに、修正文案と、修正を求める理由を1〜2行で添えてください。
違いは3つあります。読む範囲を明示していること。探してほしいものを種類で指定していること。そして 条番号付き を求めていることです。この最後の点が、次の注意につながります。
議事録の例でも、型は同じです。
添付する過去6ヶ月分の定例会議の議事録をすべて読んでください。(1) 決定事項、(2) 3回以上議題に上がりながら結論が出ていない事項、(3) 担当者が明記されないまま流れている事項、の3つに仕分けて、それぞれ該当する会議の日付を添えて一覧にしてください。
「読んで、どう思う?」ではなく、仕分けの箱と、答えの出どころの形式を先に渡す。まるごと読ませる依頼は、この型さえ覚えれば応用が利きます。
注意 ── 読ませた内容の事実確認は、人間の仕事
Fable 5 は大量の資料を読めますが、その答えを 信じてよいかどうかは別の問題 です。読み落としや、もっともらしい誤読は起こりえます。ここで確認を怠ると、第2回で見た「やり直しのコスト」が、もっと高い「誤った判断のコスト」に化けます。
だから依頼の段階で、確認しやすい形式を指定しておくのが実務のコツです。条番号、ページ番号、原文の引用 ── 出どころを添えさせれば、あなたは指摘された箇所だけを原典で確かめればよくなります。全部を読む仕事が、指摘箇所を検証する仕事 に変わる。時間の使い方として、これが一番効率的です。
検証の手順も、簡単に型にできます。まず、指摘の一覧から重要度の高いものを2〜3件選ぶ。次に、その箇所だけ原典を開いて、引用が正確か、解釈が妥当かを確かめる。そこが正確なら、残りの指摘も同じ品質だと期待してよい確度が上がりますし、ずれていたら、依頼文を直してもう一度読ませればよい ── 入力の再実行は、前述のとおり安い操作です。
もう一つ、運用上の注意があります。読ませてよい資料かどうかは、読ませる前に確認してください。契約書や議事録には機密が含まれます。データの扱いには制約があり、これは第7回でまとめて説明します。
その仕事は、Fable 5 に頼む価値があるか?
第3回の答えです。1つの文書の要約なら、安いモデルで足ります。複数の文書をまたいで、矛盾・抜け・論点を探す仕事 ── それが Fable 5 に資料をまるごと読ませる価値のある仕事です。出どころ付きで答えさせて、検証はあなたが行ってください。
次回は、資料を読ませる先にある使い方 ── 複数の工程がある仕事を、丸ごと任せる方法です。
本記事の情報は2026年7月時点のものです。料金・提供状況は変わる可能性があるため、最新は Anthropic 公式情報をご確認ください。