なぜ「環境を伝える」専用の章があるか
第2章で「文脈を渡す」ことの重要さを書いた。第3章は、その文脈のうち最も具体的な部分——ハードウェアとソフトウェアの情報——を、どう取り出して、どう整えてClaudeに渡すかを扱う。
Debianのインストールに入る前に、今使っているPCの素性を把握しておく必要がある。CPUは64ビットか、メモリは何GBか、ストレージは何で、無線LANチップは何か、入っているソフトは何か。これらが分からないと、Claudeは一般論しか返せない。
この章の終わりに、あなたの手元には my-system.md という一枚のファイルが残る。これが第4章以降の全ての議論の土台になる。
第一節 今のOSから情報を取り出す
Windowsからの情報取得
Windowsを使っているなら、PowerShell(スタート→「PowerShell」と打って起動)で次のコマンドを一つずつ実行する。
# システム情報
Get-ComputerInfo | Select-Object CsName, CsManufacturer, CsModel, OsName, OsVersion, CsProcessors
# メモリ総量
(Get-CimInstance Win32_PhysicalMemory | Measure-Object Capacity -Sum).Sum / 1GB
# ストレージ
Get-CimInstance Win32_DiskDrive | Select-Object Model, Size, InterfaceType
# ネットワークアダプタ
Get-NetAdapter | Select-Object Name, InterfaceDescription, Status, LinkSpeed
# グラフィックス
Get-CimInstance Win32_VideoController | Select-Object Name, AdapterRAM, DriverVersion
# インストール済みソフト(抜粋)
Get-ItemProperty HKLM:\Software\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Uninstall\* |
Select-Object DisplayName, DisplayVersion, Publisher |
Where-Object { $_.DisplayName -ne $null } |
Sort-Object DisplayName
macOSからの情報取得
macOSを使っているなら、ターミナル(Spotlightで「terminal」)で次を実行する。
# ハードウェア概要
system_profiler SPHardwareDataType
# ストレージ
diskutil list
# ネットワーク
networksetup -listallhardwareports
# アプリ一覧
ls /Applications
# Homebrewで入れたもの(使っていれば)
brew list
Linux(既にLinuxを使っている場合)からの情報取得
既にLinuxを触っているなら、次を実行する。これらはDebianに移行後も同じコマンドだ。
# CPU
lscpu
# メモリ
free -h
# ストレージ
lsblk -o NAME,SIZE,TYPE,MOUNTPOINT,FSTYPE
# PCIデバイス(GPU、無線LANなど)
lspci -nnk
# USBデバイス
lsusb
# 入っているパッケージ(Debian/Ubuntu系)
dpkg -l | awk '{print $2, $3}' | head -50
# カーネルと発行版
uname -a
cat /etc/os-release
Claudeに聞いてみよう①:コマンド群を自分のOS向けに調整
私は現在〔Windows 11 / macOS Sonoma / Ubuntu 22.04 など〕を使っています。 この章の「環境情報を取り出すコマンド集」を、私のOSに合わせて一度に流せる形にまとめてください。 各コマンドが何を取るものかのコメントを添えてください。Claudeに渡すときに見やすいように、出力はMarkdownのコードブロックで返す形にしてください。
Claudeにコマンドを整形してもらう発想自体が、この本の流儀だ。自分で覚える必要はない。
第二節 出力から「Claudeに渡すべき部分」を選ぶ
全部渡すとノイズになる
Get-ComputerInfo や lspci -v の出力は、全部貼ると数百行になる。全部渡すとClaudeが迷う。渡すべきはポイントを絞った要約だ。
以下の項目を拾って、一枚のMarkdownファイルに整える。
my-system.md の骨格
# 私のシステム情報(2026-04-23 時点)
## 機械
- メーカー / モデル / 年式:
- CPU(モデル名、コア数、周波数):
- メモリ:〇GB
- ストレージ:〇GB(SSD/HDD、NVMe/SATA)
- GPU:
- ディスプレイ:解像度、内蔵/外付け
- 無線LANチップ(Intel AX210, Realtek RTL8821CE 等):
- Bluetooth:有/無
- 指紋認証・顔認証:有/無、メーカー・型番
- USB ポート構成:Type-A ×〇、Type-C ×〇、Thunderbolt 有/無
## 現在のOS
- OS名・バージョン:
- BitLocker/FileVault の有効/無効:
- Secure Boot の有効/無効:
- TPM:有無とバージョン
## 日常的に使うソフト
- ブラウザ:
- メール:
- オフィス:
- 画像編集:
- 音楽・動画:
- 仕事で必須のもの:
## 周辺機器
- プリンタ(メーカー、モデル):
- スキャナ:
- ペンタブレット:
- 外付けモニター:
## ネットワーク環境
- 自宅の Wi-Fi(2.4/5/6 GHz、暗号化方式):
- 職場の VPN の種類(もしあれば):
- 日本語入力の現在の方法:
各項目に、第一節で取ったコマンドの出力から該当する情報を入れる。全項目を埋める必要はない。分からない項目は「不明」と書いておく。
「無線LANチップ」と「GPU」が特に重要
Debianインストールで最初に引っかかるのはこの二つだ。
- 無線LANチップ:ノートPCは機種ごとに違う。Intel系はほぼ問題なく動く。Broadcomと一部Realtekはファームウェアが別途必要。
- GPU:内蔵グラフィックス(Intel、AMD)は問題ない。NVIDIA独立GPUはドライバで少し手間がかかる。
この二つは、必ず my-system.md に書き込む。後でClaudeに「私のチップでDebianは安定しますか」と聞くと、具体的な答えが返る。
Claudeに聞いてみよう②:取った情報の整形を依頼
私のPCから次の情報を取りました。〔第一節のコマンドの出力を貼る〕
これを、私の
my-system.mdの骨格に整えてください: 〔上のテンプレートを貼る〕分からない項目は「要確認」と書き、それを調べるためのコマンドを添えてください。
この一往復で、あなたの手元にシステム情報の要約ファイルができる。
第三節 Claudeにとって読みやすい書き方
Claudeが得意な形式
Claudeは次の形式を特に読みやすい。
- Markdownの見出しと箇条書き:階層構造が明確で、どこに何があるか迷わない
- 表:項目と値の対応が明確
- コードブロック:コマンドの出力や設定ファイルは必ず ``` で囲む
- 短い段落:一段落3〜4行まで
逆に、次は避ける。
- スクリーンショットの画像(OCRの手間がかかる)
- PDFの貼り付け(レイアウトが壊れて読めない)
- 絵文字の装飾的な多用(処理コストが上がる)
- 3000行を超える超長文(途中から注意が薄れる)
ファイル全体をまるごと渡すコツ
my-system.md のような設定ファイルやログは、Claudeに「ファイル名を明示して」渡す。
my-system.md:
〔ファイルの中身をそのまま貼る〕
この書き方をすると、Claudeは「これはファイルだ」と認識して、後の対話で「my-system.md の GPU 欄を書き換えてください」のように名前で参照できる。
Claudeに聞いてみよう③:書き方そのものを検証
次の二つの書き方のどちらが、Claudeにとって扱いやすいですか。理由も添えてください。
A:「私のPCはDell Latitude 7420で、メモリは16GB、CPUはi7、ストレージは512GBのSSDで、無線はIntelの何かです」
B:
- メーカー / モデル:Dell Latitude 7420(2021) - CPU:Intel Core i7-1165G7(4コア8スレッド、最大4.7GHz) - メモリ:16GB DDR4-3200 - ストレージ:Samsung PM981a 512GB(NVMe SSD) - 無線LAN:Intel Wi-Fi 6 AX201
Claudeは後者を推すはずだ。以降、自分もそういう書き方をする。
第四節 プライバシーを守りながら渡す
見落としがちな情報漏れ
環境情報の中には、そのままClaudeに渡すべきでないものが混じる。
- シリアル番号:PCのシリアルは、保証や盗難対応に使える情報。渡す必要はない
- MAC アドレス / BSSID:家の Wi-Fi のMACアドレスや BSSID は、場所特定に繋がる
- ユーザー名を含むパス:
C:\Users\John_Smith\Documents\のJohn_Smithは本名の一部 - メールのフォルダ名:取引先名や個人名が入っていることが多い
- ホスト名:会社名を含むことがある
渡す前に一度読み返す
コマンドの出力をコピーしたら、貼り付ける前に一度目で読む。気になる文字列があれば、[REDACTED] などに置き換える。
# 置き換え例
ホスト名:YAMADA-LATITUDE-7420 → [hostname]
ユーザー名パス:C:\Users\yamada\ → C:\Users\[user]\
MAC:A1:B2:C3:D4:E5:F6 → [mac]
これだけでClaudeの答えの質は変わらない。プライバシーは守られる。
Claudeに聞いてみよう④:情報の機微を確認
次のテキストをClaudeに渡す前に、プライバシーの観点で置き換えるべき箇所を指摘してください:
〔自分が集めた情報を貼る〕
置き換え後の推奨表記も添えてください。
Claudeに情報の機微を判断させるのは逆説的だが、実用上うまく機能する。一度この作業をすると、次回からは自分で気付くようになる。
まとめ
この章でやったこと:
- 現OSから環境情報を取り出すコマンドを実行した
- 出力から「Claudeに渡すべき要点」を選別した
my-system.mdに一枚にまとめた- 書き方の形式(Markdown、表、コードブロック)を整えた
- プライバシー上問題のある情報を置換した
手元に残ったもの:
my-system.md(自分のシステム情報要約)- 第2章で作った
my-claude-profile.mdと並べると、あなたの「Claudeに渡すセット」が完成する
次の第4章では、この環境情報を元に、依存関係の棚卸しをする。「このソフトは何に依存しているか」「このデータは何に紐付いているか」を Claude と一緒に整理して、Windows を消す前に確認すべきものを全て洗い出す。
シリーズ全体はClaudeと一緒に学ぶDebian 一覧から辿れる。コメント・議論は Facebook グループへ:AISeed — 生物多様性・食料・AIと暮らし