Claude × Debian 05

第5章 インストールの全体像を Claude と理解する

手順の前に、何が起きるのかを先に理解する

なぜ「全体像」から入るか

多くのインストール記事は「ダウンロード→USB作成→起動→…」と手順書から始まる。動けばいいのだが、動かなかったときに自分がどこにいるのか分からなくなる。地図なしで山に登るのと同じだ。

この章では、Debianのインストールを八つの段階に分解する。それぞれが何のためにあるか、何を判断する段階か、何が失敗しうるかをClaudeと理解する。個別の手順は第6・7・8章で扱う。ここではまだUSBメモリも必要ない。頭の中の地図を作るだけだ。

先に結論——Debian 13 のインストールは Windows より楽

本章を読み始める前に、心構えを一つ書いておく。

Debian 13(Trixie)のインストールは、Windows 11 の新規セットアップより楽だ。 これは筆者が実機で確かめた結論だ。

  • netinst ISO に non-free firmware が標準同梱(Debian 12 以降)。無線LAN・GPUのファームウェア取得で詰むことが激減した
  • インストーラの 言語選択で日本語を選ぶと、Fcitx5+Mozc までまとめて入る(第10章でやる手作業の大半が不要)
  • パーティションは 「ディスク全体+暗号化」を選ぶだけ。LVMもボリューム設計もインストーラが面倒を見る
  • 再起動後、Wi-Fi・GPU・音・サスペンドが最初から動く機種が以前より大幅に増えた

Windows 11 のセットアップにある「Microsoftアカウント強制」「広告/同意ダイアログの山」「OneDrive 同期の押し付け」「Copilot 設定」を全部スキップできる、と思って構わない。だから本章で八段階を分解するのは「複雑だから」ではなく、動かなかったとき自分の現在地を見失わないための予防策だ。実際の手順は驚くほど直線的に進む。

ただし、Windows 11 側に二つだけ事前作業がある

「楽だ」と書いたが、現行 PC に Windows 11 がプリインストールされている人は、Debian インストーラを起動する前に Windows 側で二つだけやることがある

  1. BitLocker(デバイスの暗号化)を無効化する Windows 11 は 最近の機種ではデフォルトで BitLocker が有効になっている。これが有効のままだと、Debian インストーラがディスクをまともに認識できず、最悪 Windows 側のデータが復号できなくなる。設定 → プライバシーとセキュリティ → デバイスの暗号化 を OFF にし、復号が完了するまで待つ(数十分〜数時間かかる)。Windows Pro の場合は「BitLocker ドライブ暗号化」管理画面から無効化する。
  2. 「高速スタートアップ」(Fast Startup)を無効化する コントロールパネル → 電源オプション → 電源ボタンの動作を選択する → 現在利用可能ではない設定を変更します → 高速スタートアップを有効にする のチェックを外す。これが有効だと、Windows がディスクの状態を完全に書き出さず、Debian インストーラから USB が認識されない・ディスクが壊れて見えるなどの問題が起きる。

この二つを片付けて再起動した瞬間、PCは「Debian を入れていい状態」になる。逆に言えば、「Debian のインストールで詰まる原因のほとんどは Linux 側ではなく Windows 側の事前作業の漏れ」だ。

第一節 インストールの八段階

1. ISOイメージの入手

Debianの公式サイトから.isoという拡張子のファイルをダウンロードする。これが「OSまるごとのパッケージ」だ。

判断ポイント:

  • :Stable(安定版)/Testing/Unstable のどれを選ぶか。初心者は迷わずStable(本書執筆時点では Debian 13 "Trixie")
  • 種類:netinst(小さいISO、インストール中にネットから追加取得)/DVD(オフラインでも完結)。ネット環境がまともならnetinst
  • アーキテクチャ:amd64(Intel/AMDの普通のPC)/arm64(Raspberry Pi、一部のARM機)。普通のPCなら amd64
  • ファームウェア:Debian 12 以降、公式 netinst ISO に non-free firmware が同梱されている。-firmware 付きを別途探す」必要はもうない。古い記事を見て迷ったら、debian.org の公式 netinst を素直に取れば良い

2. USBブートメディアの作成

ダウンロードしたISOを、USBメモリに書き込む。USBメモリが「起動可能なDebianインストーラ」になる。

判断ポイント:

  • 書き込みツール:Windowsなら Rufus、macOSなら Balena Etcher か dd、既にLinuxなら dd か Etcher
  • USB容量:8GBで十分(netinst ISOは500MB程度)
  • USBの中身は全て消える。大事なデータが入っていないUSBを使う

3. PCの起動順序変更(UEFI / BIOS)

PCの電源を入れたときに、SSDではなくUSBから起動するよう設定する。これがハマりどころだ。

判断ポイント:

  • UEFIに入る:メーカーごとに違うキー(Dell: F12、HP: F9またはEsc、Lenovo: F12、Thinkpad: Enter→F12、ASUS: F2/Del、自作機: Del/F2)
  • Secure Boot:Debian 12以降は対応済だが、初期は無効化しておくほうが安全
  • Fast Boot / Fast Startup:Windows の Fast Startup は必ず無効化(これが原因でUSBが認識されないことがある)
  • TPM:有効のままでいい

4. インストーラの起動

USBから起動すると、Debianインストーラの画面が出る。

判断ポイント:

  • Graphical install:マウスが使える見やすい画面。初心者はこれ
  • Install:テキストベース。上級者向け
  • Advanced options:expertモードなど。まだ触らない

5. 基本設定(言語、地域、キーボード、ホスト名)

インストーラの最初の数画面で、日本語環境の選択肢を取る。

判断ポイント:

  • 言語:日本語を選ぶとメニューや初期パッケージが日本語になる
  • 地域:日本を選ぶと時刻と標準のリポジトリが決まる
  • キーボード:日本語キーボードなら「日本語」。英字キーボードなら「米国英語」
  • ホスト名:このPCの名前。debian-taro のように分かりやすく。会社名や本名は避ける
  • ドメイン名:空欄でよい

6. パーティションとディスク暗号化

ディスクをどう分割して、Debianをどこに置くかを決める。この章で一番重要な段階。

判断ポイント:

  • Windowsが残っているなら消す:前章までで決めた方針通り。消してDebianに全域を与える
  • ディスク全体を使う vs 手動:初回は「ディスク全体を使用」が安全
  • LVM を使うか:初回はシンプルな構成でよい。本書はLVMなし推奨
  • 暗号化するか:ノートPCなら LUKS全体暗号化を有効にする。盗難時にデータが守られる。起動時にパスフレーズ入力が必要になる(やる価値がある)
  • スワップ:RAM と同じ量のスワップパーティション。ハイバネートしないなら少なめでもよい

7. パッケージとネットワーク設定

どんなアプリを最初に入れるかを選ぶ。ネットワーク経由で必要なパッケージを取得する。

判断ポイント:

  • ミラーの選択:日本のミラー(jp.debian.org)が速い。deb.debian.org でも自動振り分けで困らない
  • ソフトウェアの選択:「Debianデスクトップ環境」「GNOME」「標準システムユーティリティ」を選ぶ。これで最小限の快適環境になる(第9章で見直す)
  • 日本語入力:言語で「日本語」を選んでいれば、Fcitx5+Mozc は自動でインストールされる。第10章は「仕上げ・カスタマイズ」の章であって「ゼロから入れる」章ではない
  • SSH サーバー:別のPCから入りたいなら入れる。初心者は一旦オフでよい

8. ブートローダ(GRUB)のインストール

最後に、PCの電源を入れたときに Debian が起動するよう、ブートローダを書き込む。

判断ポイント:

  • どのディスクに入れるかDebianをインストールするディスクの先頭(例:/dev/sda) を選ぶ
  • Windowsが残っていなければ、GRUBの質問は単純:これもデュアルブートを避ける理由の一つ

再起動と初回ログイン

USBを抜いて再起動。暗号化のパスフレーズ→ログイン画面→デスクトップ。ここまで来て第一段階が終わる。

第二節 Claudeに全体像を整理させる

Claudeに聞いてみよう①:自分の環境向けの工程表

私の my-system.md を前提に、Debian 13 Stable をクリーンインストールする工程を、前述の八段階に沿って具体化してください。

各段階について: (1) 私の環境で特に注意すべき点 (2) 失敗しやすいパターンと回避策 (3) 所要時間の目安 を書いてください。

my-system.md を貼る〕

返ってきた工程表がこの章の成果物だ。テキストファイル install-plan.md として保存する。

Claudeに聞いてみよう②:UEFI設定の機種別手順

私のPCは〔メーカー・モデル〕です。UEFI 設定画面に入る方法、USB を優先起動にする方法、Secure Boot と Fast Boot の変更方法を、この機種の具体的なキー操作で教えてください。

もし機種特有の落とし穴(BIOSのバージョンで挙動が違う、BitLocker が有効だと暗号化キーを失う、など)があれば警告してください。

機種ごとの手順をClaudeが出してくれる。これを印刷しておくと、USBブートに詰まったときの助けになる。

第三節 失敗パターンと戻れる道

インストール失敗の典型五パターン

Debian 13 では大半が解消済みだが、残った地雷として頭の隅に置く。

失敗1:USB を認識しない 原因:Fast Startup が有効、Secure Boot の設定、USBメモリの相性、USB 3.0 ポートとの相性。 対策:Fast Startup を無効化、Secure Boot を一旦オフ、別のUSBポートと別のUSBメモリで試す。Debian 13 でも残る、Linux 側ではなく Windows / UEFI 側の問題

失敗2:インストーラでネットに繋がらない 原因:かつては「無線LANチップのファームウェアが足りない」が定番だったが、Debian 12 以降の公式 netinst ISO は firmware 同梱済みでほぼ起きない。残るとすれば極端に新しい無線チップか企業内プロキシ。 対策:迷わず有線LANで一旦繋ぐ。USBテザリングでも良い。

失敗3:パーティション画面で既存のWindowsが見えない 原因:BitLocker で暗号化されていて認識できない、RAID設定が特殊。 対策:Windows側でBitLockerを事前に解除する。Windows 11 はデフォルトで BitLocker が有効化されることがあるので、移行前に必ず確認。

失敗4:GRUB インストールに失敗する 原因:対象ディスクの指定ミス、UEFI/BIOSの混在。 対策:やり直し。GRUB を入れる場所を正しく指定。Windowsを残さずクリーンインストールするなら、ほぼ「内蔵SSDを選ぶだけ」で終わる。

失敗5:再起動後に画面が真っ黒 原因:NVIDIA独立GPUのドライバ問題、一部の内蔵GPUの相性。 対策:起動オプションに nomodeset を追加(第8章で扱う)。Intel/AMD の内蔵GPUなら、ほぼ起きない

「戻れる道」を事前に確保する

失敗したときに元に戻せる道を、インストール前に作っておく。

  1. 外付けストレージへの完全バックアップ。Windows の状態をクローンしておく(Macrium Reflect Free、Clonezilla等)。最悪の場合、元のWindowsに戻せる
  2. 古いPCを稼働状態で残す。Debianのインストール中にネット検索やClaudeを使えなくなるので、別のPCかスマホを手元に置く
  3. USBメモリを最低2本用意。1本は Debian インストーラ、もう1本は Windows 回復メディア(Microsoftの公式ツールで作れる)

Claudeに聞いてみよう③:戻れる道の確認

私は〔Dell Latitude 7420 Windows 11 Pro〕からDebianへの移行を計画しています。 インストールに失敗したときに Windows に戻れる経路を、次の三段階で確認してください:

(1) 理想:何事もなくWindowsが復元できる (2) 保険:一日〜数日の作業でWindowsに戻せる (3) 最終手段:業者や再購入を伴うが復旧可能

各段階で、私が事前に準備しておくべきものを列挙してください。

第四節 スケジュールを立てる

推奨の時間配分

インストール作業そのものは、Debian 13 では実時間で1〜2時間で終わる。ただしバックアップと予備対応を含めて、半日確保するのが妥当だ。

  • 準備(当日の朝〜):1〜2時間
    • USB作成、UEFI設定確認、バックアップの最終確認
  • インストール本体:30分〜1時間
    • パッケージダウンロードを含む実時間。コーヒーを飲んで眺めているだけの時間が多い
  • 初期動作確認:30分〜1時間
    • 無線LAN、ディスプレイ、サウンド。Debian 13 では大半「最初から動く」ので、確認するだけ
  • 第一次トラブル対応の余裕:1〜2時間
    • 何か一つ躓いても余裕で対応できる範囲

合計3〜6時間。インストール体験は Windows 11 の初回セットアップより短く感じるはず。だが焦って判断を端折るのは禁物——「速く終わる」と「雑にやる」は別物だ。

予備日を必ず作る

金曜の夜に始めて月曜の朝に仕事——はやめる。土曜日にインストール、日曜日を予備日にする。問題が出ても月曜日には仕事できる状態に戻せる。

Claudeに聞いてみよう④:私のスケジュール

私は〔使える時間帯・締切〕を考慮してインストールを計画したいです。 私の状況(my-system.md)と、上の工程表・トラブルパターンを踏まえて、現実的なスケジュール案を立ててください。予備日、戻せる道の確保日も含めて。

まとめ

この章でやったこと:

  1. インストールを八段階に分解して全体像を掴んだ
  2. 各段階の判断ポイントを把握した
  3. 自分のPC向けの工程表 install-plan.md を作った
  4. 失敗パターンと戻れる道を事前に確認した
  5. 現実的なスケジュールを立てた

手元に残ったもの:

  • install-plan.md(自分専用の工程表)
  • UEFI機種別手順のメモ
  • スケジュール

第6章では、「自分のハードウェアに合った選択」をさらに深掘りする。デスクトップ環境(GNOME/KDE/Xfce等)、ファイルシステム、暗号化方式の具体的な判断を、あなたのPCに即して固める。


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手順をなぞる前に、地図を持つ。

「ISOを焼いてブート」と言われて何が起きているかが分からないまま進めると、エラーが出た瞬間に迷子になる。全体像を把握してから個別の手順に入る——この順番が、後のトラブル時に効いてくる。

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