この章の目的
第1章で「何を失うか」を分類した。第3章で「私の環境」を書いた。第4章は、この二つを繋ぐ作業だ。
具体的には、「Windowsを消した瞬間に困るもの」を一つも見落とさないための棚卸しをする。ソフトウェアの動作だけではない。ログイン情報、認証アプリ、ライセンスキー、クラウドに上がっていないデータ、家族との共有、プリンタのドライバ、年賀状の住所録——普段気にしていない繋がりが、消した瞬間に顔を出す。
この章でClaudeと一緒に作るのは、依存関係マップだ。これを作っておけば、第5章以降のインストールで慌てない。
第一節 五つの依存カテゴリ
依存関係は次の五つに分ければ見落としが減る。
A. 認証と本人確認 ログインID、パスワード、二要素認証、パスキー、物理セキュリティキー、認証アプリ(Microsoft Authenticator、Google Authenticator、Authy)、スマホのSMS、物理的なICカード。
B. データ ローカル保存のファイル、クラウドに同期されているつもりでされていないファイル、メール本文、連絡先、カレンダー、ブラウザのブックマークとパスワード、チャット履歴、写真、音楽、動画、ゲームのセーブデータ。
C. ライセンスとサブスクリプション OS のライセンスキー、Office のアカウント、Adobe、Microsoft 365、クラウド系のサブスク、各種 SaaS、オフラインの業務ソフトのライセンスファイル。
D. ハードウェアとドライバ プリンタ、スキャナ、ペンタブ、特定の USB機器(業務用の計測機器、リーダーなど)、Bluetooth デバイス、ウェブカメラ、外付けのオーディオインターフェース。
E. 人との繋がり 家族との共有フォルダ、LINE のメッセージ履歴、同僚との OneDrive 共有、親戚との共有アルバム、年賀状の住所録、先代から引き継いだ何か。
Claudeに聞いてみよう①:五カテゴリの初期洗い出し
私のプロフィール(第2章で作った
my-claude-profile.md)と環境情報(第3章のmy-system.md)を前提に、Windows を消してDebianに移行する際、次の五カテゴリで「消す前に確認すべきもの」を具体的に列挙してください:A. 認証と本人確認 B. データ C. ライセンスとサブスクリプション D. ハードウェアとドライバ E. 人との繋がり
各項目には「確認方法」「Debian移行後の扱い」「深刻度(高・中・低)」を添えてください。
〔ここに
my-claude-profile.mdとmy-system.mdを貼る〕
Claudeはあなたの状況に応じたリストを返す。完全ではないが、見落としに気付くきっかけにはなる。
第二節 A:認証と本人確認の落とし穴
認証アプリは機種変更手順で扱う
Windowsに入っているPCアプリ版の認証アプリ(Microsoft Authenticator for Windowsなど)は、Debianに移行すると消える。認証コードを再設定できないと、オンラインサービスから締め出される。
対処の定石は次の通り。
1. スマホ版の認証アプリを主にする。 Microsoft Authenticator、Google Authenticator、Authy、Bitwardenはスマホで使える。PCを消しても影響が残らない。
2. パスキーを使えるサービスは、パスキーに移す。 パスキーはFIDO2対応のスマホやセキュリティキーに紐付くので、PCの OS には依存しない。
3. バックアップコードを全サービスで出力しておく。 Google、Microsoft、主要SNS、金融機関のオンライン口座、2FAを設定している全サービスで、「バックアップコード」「復旧コード」を生成して、紙に印刷するか、暗号化したファイルにして、Debianに持っていく用の場所以外に保管する。
4. 物理セキュリティキーを一本用意する価値がある。 YubiKey のようなハードウェアキーは、OSに依存しない本人確認手段だ。重要なアカウントには一本あると安心だ。
Claudeに聞いてみよう②:認証の棚卸し
私が使っている主要オンラインサービスはこれです:〔Gmail、iCloud、LINE、銀行、SNS、仕事の Microsoft 365、その他〕。
各サービスについて、(1)Windows を消した時点で認証が維持できるか、(2)維持できない場合の事前対処、(3)Debian移行後の推奨認証方式(パスキー、スマホ認証アプリ、物理キー、等)を表にしてください。
この表を埋めたら、消す前に全サービスでログインし直して、認証が通ることを確認する。これを省略すると、消した後で高確率で詰む。
第三節 B:データの完全避難
「クラウドにあるつもり」の罠
OneDrive、iCloud、Google Drive、Dropbox——どれも「クラウドに上がっているから安心」と思いがちだ。ところが次のようなケースでは、ローカルにしかないデータが残っている。
- デスクトップやダウンロードフォルダ(同期対象外にしていた場合)
- 一度ログインしたが、容量超過で同期が止まっているフォルダ
- ローカルのメールクライアント(Outlookの
.pstファイル、Thunderbirdのプロファイル) - ゲームのセーブデータ(Steamクラウド対応でないもの)
- ブラウザのブックマーク、パスワード、履歴(同期オフの場合)
- ペイントソフトやDAWのプロジェクトファイル
- 年賀状ソフト、家計簿ソフトの独自形式のデータ
棚卸しの具体的な手順
-
C:\Users\〔あなた〕 以下を全部スキャンする
Desktop,Documents,Downloads,Pictures,Videos,Music,AppDataを一つずつ開いて、中身を見る。 -
クラウド同期の状態を各サービスで確認する OneDriveの設定画面で「同期対象のフォルダ」を確認。iCloudも同様。
-
ブラウザのプロファイルをエクスポートする Chromeの「ブックマーク」「パスワード」「オートフィル」を CSV / HTML でエクスポート。Firefoxも同様。
-
メールのローカル保存を確認する Outlookの
.pst、Thunderbirdのプロファイルフォルダ、AppleMailのメールボックス。必要に応じて外付けストレージにコピー。 -
アプリ独自形式のデータを扱える形に変換する 可能ならCSVやJSONなど汎用形式にエクスポート。元形式のままでも保管はしておく(仮想マシンで開ける場合に備える)。
保管先は三つに分ける
避難させたデータは、次の三つに分ける。
- Debianに持っていく分:日常で使うデータ
- アーカイブ:滅多に見ないが残したいもの
- 破棄候補:この機会に捨てるもの
3が実は一番大事だ。移行は整理の絶好の機会。十年前の仕事のファイル、使わない画像、古いバックアップを抱えたまま新環境に持ち込むと、Debianがゴミ箱になる。
Claudeに聞いてみよう③:データ避難チェックリスト
私が使っているアプリとサービスは〔再掲〕です。これらのうち、Windows を消す前に「ローカルにしかない可能性のあるデータ」を洗い出してください。
各項目について: (1) どのフォルダまたはアプリの設定を確認するか (2) 何のファイル形式でエクスポートできるか (3) Debianで開ける形式か、仮想マシンが必要か
また、私が見落としがちな「隠れたデータ」(AppData配下、レジストリ依存のもの、等)があれば警告してください。
Claudeは意外な場所のデータを指摘してくれる。「そういえば」と思い出すきっかけになる。
第四節 C:ライセンスとサブスクリプション
整理の観点
この機会に、サブスクリプションを棚卸しする。多くの人は、使っていないサービスに年額数万円を払い続けている。
| 種別 | 例 | Debian移行後の扱い |
|---|---|---|
| OSライセンス | Windows 11 Pro | 使わない。不要なら返金は諦める |
| オフィス | Microsoft 365 | Markdown + CSV + Python に切替で大半は不要に。提出書類に Office 形式が必要な時は OnlyOffice(予備に LibreOffice)で足りる |
| セキュリティ | ノートン、ウイルスバスター | Debianは標準で十分。解約 |
| クラウド | OneDrive有料枠 | 他サービスに移すか縮小 |
| 画像・動画 | Adobe Creative Cloud | DaVinci Resolve、GIMP、Inkscapeで代替可能か検討 |
| 特殊ソフト | 会計、業務 | 代替を調べるか、専用機を残すか |
ライセンスキーは消す前に回収する
永続ライセンス(買い切り)のソフトは、ライセンスキーを控える。多くのソフトは「インストール済みPC上のファイル」にキーが埋まっている。消したら取り戻せない。
PowerShellで古いMicrosoft製品のキーを取る一例:
(Get-WmiObject -query "select * from SoftwareLicensingService").OA3xOriginalProductKey
他のソフトは、ソフトごとの「ライセンス情報」メニュー、もしくはメーカーのサイトのマイページから再取得できるか確認。この作業は消す当日ではなく、一週間前までに終えておく。
Claudeに聞いてみよう④:サブスクの仕分け
私が現在払っているサブスクリプションとライセンスは以下です:〔一覧〕。
Debianに移行することを前提に、次の三つに分けてください: (1) 解約しても代替で困らない (2) 縮小プランで十分(現プランから下げる) (3) 業務上維持が必要(Debian上で動くなら続行、動かないなら別PCか代替検討)
年額の節約可能額の概算も添えてください。
節約可能額が具体的な数字で出ると、移行のモチベーションが上がる。
第四節の補:Markdown / CSV で持ち直すと、Office 自体が要らない
ここで一段踏み込む。Office を「LibreOffice で代替する」と考えるうちは、 Microsoft の世界の中でしか動けない。自分の作業領域を Markdown と CSV と Python に作り直すと、そもそも Office 系ソフトが要らない用途が ほとんどになる。
| 用途 | 旧来 | AI ネイティブ |
|---|---|---|
| メモ・議事録 | Word | Markdown |
| 提案書・報告書 | Word + PowerPoint | Markdown + Marp → PDF |
| 表計算・売上集計 | Excel | CSV + pandas(uv 環境) |
| 請求書 | Word テンプレ | Markdown テンプレ + Python(差し込み印刷) |
| 月次レポート | Excel + Word | CSV → Markdown → PDF(make all 一発) |
| プレゼン | PowerPoint | Markdown + Marp |
| 図解 | PowerPoint / Visio | Mermaid |
提出する時だけ pandoc / OnlyOffice で .docx / .xlsx / .pdf に変換する。 入口と出口だけ Office 互換層、中身は構造化テキスト。OnlyOffice は MS Office との見た目互換性が高く、本書では第11章で互換層の代表として扱う。
具体的なコード・実測値はAIネイティブな仕事の作法 シリーズの実例集を参照(月次報告 30 秒、100 個の Excel を 0.07 秒で集計、等)。
この見立てがあれば、サブスクの仕分けで Microsoft 365 を解約 の判断が かなり通る。「Word が無いと書類が作れない」のではなく、「Word より Markdown の方が AI に渡せて検索もできて 10 年後も読める」のだから。
第五節 D・E:ハードウェアと人との繋がり
プリンタ・スキャナの確認
家庭用の主要メーカー(Canon、Epson、Brother、HP)のプリンタは、ほぼ全てLinuxドライバが提供されている。モデル名を具体的に取っておくことが重要だ。
家族との共有とやり取りの形式
家族全員がWindowsなら、共有フォルダの形式、年賀状ソフト、家計簿ソフトで擦り合わせが必要だ。自分だけDebianに移ると、家族とのやり取りが途切れる箇所が出てくる。
この章の棚卸しでは「誰と、どのソフト経由で、どの形式で」をリスト化しておく。第11章「アプリケーションの選択」で、家族との互換性を保つ方針を立てる。
Claudeに聞いてみよう⑤:ハードと人の依存マップ
私のハードウェア環境(
my-system.md)と、家族・同僚との共有状況〔記述〕を前提に、Debianに移行したときに: (1) ドライバで引っかかる可能性のあるハード (2) 家族・同僚との間で共有形式の擦り合わせが必要な部分 を、それぞれ表にしてください。
第六節 一枚の依存関係マップに集約
ここまでの出力を、一枚のMarkdownファイルにまとめる。
# 私のDebian移行 依存関係マップ (2026-04-23)
## A. 認証と本人確認
| 項目 | 現状 | 事前対処 | 深刻度 |
| --- | --- | --- | --- |
| Microsoft Authenticator PC版 | Win上 | スマホ版に一本化済 | 中 |
| Google 2FA | スマホ | バックアップコード印刷 | 高 |
| 銀行A パスキー | Win+顔認証 | スマホパスキーに追加済 | 高 |
## B. データ
| 項目 | 現在地 | 移動先 | ステータス |
| --- | --- | --- | --- |
| 仕事用ドキュメント | OneDrive | そのまま(Debianでもアクセス可) | OK |
| 写真(2015-2020) | Cドライブ | 外付けSSDに移動後、Debianへ | 要作業 |
| Outlookメール(.pst) | Cドライブ | Thunderbirdに移行予定 | 要作業 |
## C. ライセンス・サブスク
## D. ハードウェア
## E. 人との繋がり
## 移行実行の前提条件(Go/No-Go)
- [ ] A の「深刻度:高」が全てクリア
- [ ] B のデータ避難が完了
- [ ] 外付けSSDにバックアップ取得済み
- [ ] 古いPCまたはWindowsクローンで「戻る道」を確保済み
最後のチェックボックスが全て埋まって初めて、第5章「インストールの全体像」に進む資格ができる。
まとめ
この章でやったこと:
- 五カテゴリ(認証、データ、ライセンス、ハード、人)で依存関係を棚卸し
- 各カテゴリの落とし穴とClaudeへの具体的な問いを実行
- サブスクの仕分けで実質の年額節約を可視化
dependency-map.mdに依存関係マップを一枚化
手元に残ったもの:
dependency-map.md(依存関係マップ)- バックアップコード、エクスポートしたブックマーク・パスワード、避難データの一式
次の第2部(第5章)は、いよいよインストールの全体像に入る。この準備編で作った三枚のドキュメント(my-claude-profile.md, my-system.md, dependency-map.md)を持って、Debianの世界に足を踏み入れる。
シリーズ全体はClaudeと一緒に学ぶDebian 一覧から辿れる。コメント・議論は Facebook グループへ:AISeed — 生物多様性・食料・AIと暮らし