まず、Debian 13 では「ほぼ全部動く」
身も蓋もないことを先に書く。Debian 13(Trixie)の初回起動直後、本章で挙げる七カテゴリのうち、何も問題が出ない機種が増えている。 数年前の「ノートPCに入れたら Wi-Fi・サウンド・サスペンドのどれか必ず一つは詰まる」状態ではない。
それでも本章を残しておく理由は二つある。
- 当たり外れがある。新しめのチップ、独立 GPU、特殊な無線モジュールでは依然として一手間要る
- 動かなかった時の作法——
journalctlを読む、lspciを見る、ログを Claude に渡す——は、第8章以降ずっと使い回す基礎技術だ
つまりこの章は「今あなたが詰まっている章」ではなく、「詰まったときに開く章」だ。初回起動でデスクトップが映り、Wi-Fi が繋がり、音が出て、日本語入力もできているなら、第2節以降は流し読みでよい。
「動かない」を分解する
インストール直後に「何か動かない」と感じたら、焦らず分解する。次の七つのカテゴリで、それぞれ動くか動かないかを確認する。
- ディスプレイ(解像度、スケーリング、外部モニター)
- Wi-Fi(繋がる、速度、安定性)
- Bluetooth(マウス、キーボード、イヤホン)
- サウンド(内蔵スピーカー、ヘッドフォン、マイク)
- サスペンド/復帰(蓋を閉じて開ける、電源の省電力)
- 日本語入力(Fcitx5+Mozc)
- 周辺機器(プリンタ、ウェブカメラ、USB機器)
Debian 13 では全部最初から動くこともある。それでも分解して確認する作法を一度通しておくと、半年後に壊れたとき自分を救える。
第一節 診断の共通作法
ログを取って渡す
Linux の強みは、何が起きているかが全部ログに残ることだ。トラブル時にClaudeに渡すべき情報は次の三種類。
1. システムログ
journalctl -b -p err # 今回の起動以降のエラー
journalctl -b --since "10 min ago" # 直近10分
2. ハードウェア認識状況
lspci -nnk # PCIデバイスとドライバ
lsusb # USBデバイス
dmesg | tail -50 # カーネルメッセージ末尾
3. 特定サービスの状態
systemctl status <サービス名>
systemctl --failed # 失敗したサービス一覧
Claudeに聞いてみよう(定型):トラブル共通テンプレート
どのトラブルでも使える定型プロンプト。
私のDebian 13〔DE名〕で、〔症状〕が起きています。
機種:〔メーカー・モデル〕 直前にやったこと:〔操作〕
以下は私の環境の情報です:
$ uname -a 〔出力〕 $ lspci -nnk | grep -A 2 -i 〔関連キーワード〕 〔出力〕 $ journalctl -b -p err 〔出力〕原因候補を可能性の高い順に三つ挙げ、それぞれに対する確認手順を教えてください。 破壊的なコマンドは注意書きを付けてください。
このテンプレートがあると、Claudeの答えの質が跳ね上がる。
第二節 ディスプレイ系
症状:解像度が低い、文字がぼやける
多くはGPUドライバ関連。次を試す。
# 現在のドライバ確認
lspci -nnk | grep -A 2 VGA
# Intel / AMD は標準ドライバで動くことが多い
# NVIDIA は独立パッケージが要る場合がある
NVIDIAの独立GPUの場合、non-free-firmware リポジトリから nvidia-driver を入れる。
# /etc/apt/sources.list に contrib non-free non-free-firmware が入っているか確認
cat /etc/apt/sources.list
# 必要なら追加(Claudeに正確な書式を聞く)
sudo apt update
sudo apt install nvidia-driver
sudo reboot
症状:外部モニターが表示されない
# 接続されているディスプレイ
xrandr # X11 の場合
gnome-randr # Wayland の GNOME の場合(無ければ apt install)
# 解像度の設定
設定 → ディスプレイ → 配置と解像度
症状:HiDPI(高解像度)でUIが小さすぎる
- GNOME:設定 → ディスプレイ → スケール 125% または 150%
- KDE Plasma:システム設定 → 表示と監視 → グローバルスケール
- Xfce:少し手間。Claudeに
xfconf-queryでの設定方法を聞く
第三節 Wi-Fi とネットワーク
症状:Wi-Fiが全く繋がらない
Debian 13 の netinst ISO は non-free firmware 同梱なので、インストール直後から Wi-Fi が一度も繋がらないケースは以前より大幅に減った。それでも繋がらない場合は、極端に新しい無線チップか、ファームウェアが contrib にしかないチップの可能性がある。
# チップの型を特定
lspci -nnk | grep -A 2 -i net
# 認識状態とファームウェアの読み込み履歴
dmesg | grep -iE 'firmware|wifi|wlan'
足りないファームウェアパッケージ(firmware-iwlwifi(Intel)、firmware-realtek、firmware-atheros など)を追加で入れる。firmware-linux-nonfree でまとめて入れる手もある。
sudo apt install firmware-linux firmware-linux-nonfree
sudo reboot
症状:繋がるが遅い/切れる
2.4GHz帯が混雑している可能性。5GHz帯のSSIDがあればそちらに。省電力モードが悪さをしていることもある。
# 省電力の状況
iw dev <インタフェース名> get power_save
第四節 サウンド
症状:音が出ない
# サウンドデバイスの確認
pactl list sinks short
# ミキサー
pavucontrol # GUIミキサー。無ければ apt install pavucontrol
よくある原因:
- デフォルトの出力が間違っている(HDMIに出ている、ミュート)
- ヘッドホン検出の自動切り替えが誤作動
- Bluetoothデバイスが優先されている
症状:マイクが拾わない
pavucontrol の「入力デバイス」タブで、入力レベルをチェック。ミュートされていないか、ゲインが0になっていないか。
第五節 Bluetooth
症状:Bluetoothデバイスが見つからない
# Bluetoothサービス
systemctl status bluetooth
# 起動していなければ
sudo systemctl enable --now bluetooth
一部のチップはファームウェアが要る。dmesg | grep -i bluetooth で確認。
第六節 サスペンド/復帰
症状:蓋を閉じて開いたら起動しない
この問題はノートPCで最も厄介。原因はカーネル・ドライバ・UEFI設定の組み合わせ。
まず試す:
- BIOS/UEFI設定で
S3 sleepとModern Standby (S0ix)の切り替え(あれば) - GRUBのカーネルパラメータに
mem_sleep_default=deepを追加
Claudeに聞いてみよう:
私の機種〔モデル〕で、サスペンドからの復帰に失敗します。 症状:蓋を閉じて5分以上経ってから開くと、画面が真っ黒のまま カーネル:〔uname -a の結果〕
試すべき手順を、効果が高い順に五つ教えてください。各手順の副作用と、戻し方も添えてください。
症状:バッテリーの減りが速い
# 電力消費の状況
sudo apt install powertop
sudo powertop
powertop --auto-tune で自動最適化を試す(ただし一部の最適化は使い勝手を下げるので注意)。
第七節 日本語入力
Fcitx5+Mozcの標準構成
sudo apt install fcitx5 fcitx5-mozc fcitx5-config-qt
インストール後、im-config -n fcitx5 を実行。再ログイン。
キーバインド:半角/全角キー、またはCtrl+Space(設定で変更可)。
症状:特定アプリで日本語入力ができない
ElectronベースのアプリやSnapパッケージは、入力メソッドの仕組みが標準と違うことがある。
Claudeに聞いてみよう:
Fcitx5+Mozc の構成で、〔アプリ名〕だけ日本語入力ができません。 起動コマンドと環境変数:〔 env | grep -i xim や GTK_IM_MODULE 等の出力〕
アプリ側で必要な環境変数、または設定を教えてください。
第八節 周辺機器
プリンタ
Debianは CUPS 経由で多くのプリンタに対応。
sudo apt install cups
sudo systemctl enable --now cups
ブラウザで http://localhost:631 を開いてプリンタ追加。Canon / Epson / Brother は日本向けの別ドライバがメーカーサイトで提供されることがある。
ウェブカメラ
# 認識確認
v4l2-ctl --list-devices
# テスト
sudo apt install cheese
cheese
第九節 「動かない」の優先順位
複数のトラブルが同時に出ているとき、次の順で潰す。
- Wi-Fi(これが動かないと何も調べられない)
- ディスプレイ(毎日使うもの)
- サウンド(会議で困る)
- 日本語入力(日常業務の大半に影響)
- サスペンド/バッテリー(常用で支障)
- Bluetooth(無くても代替は多い)
- プリンタ、ウェブカメラ(必要なときに対処)
一度に全部解決しようとしない。Wi-Fiが動けば、あとはClaudeと対話しながら順に潰せる。
Claudeに聞いてみよう⑥:私のトラブル一覧を優先付け
インストール直後の今、次のトラブルが起きています:
- 〔症状1〕
- 〔症状2〕
- 〔症状3〕
上記を潰していく順番と、それぞれの想定所要時間、私がまず試すべき一歩を教えてください。
第十節 トラブル解決ログを残す
潰したトラブルは、必ずテキストファイルに記録する。
# 私のDebianトラブル解決ログ
## 2026-04-24 Wi-Fi が繋がらなかった
- 症状:インストール直後、Wi-Fi一覧が空
- 原因:firmware-iwlwifi が未インストール
- 解決:sudo apt install firmware-iwlwifi; sudo reboot
- 参考:Claudeとの対話(保存先:〇〇)
## 2026-04-25 蓋を閉じて開くと画面が真っ黒
- 症状:サスペンド復帰失敗
- 原因:Modern Standby と Linux の相性
- 解決:BIOS で「Linux」モードに変更 + GRUB に mem_sleep_default=deep
このログが、将来あなたを助ける。同じ問題が再発したとき、同じ問題を他の人に相談されたとき、再インストールするとき。
まとめ
この章でやったこと:
- 共通の診断コマンド(journalctl, lspci, dmesg)を身につけた
- ディスプレイ、Wi-Fi、音、Bluetooth、サスペンド、日本語入力、周辺機器の代表的トラブルを押さえた
- 優先順位で潰していく作法を確立した
troubleshooting-log.mdを作った
手元の状態:
- 日常で使えるDebian環境
- 躓いたときの自分専用のログ
ここで第2部(インストール)が終わる。次の第3部(第9〜12章)では、日常環境の構築に入る。デスクトップ環境の深い使いこなし、日本語入力の仕上げ、日常アプリケーションの選択、設定ファイルの管理を Claude と一緒に進める。
シリーズ全体はClaudeと一緒に学ぶDebian 一覧から辿れる。コメント・議論は Facebook グループへ:AISeed — 生物多様性・食料・AIと暮らし